乳腺センター
治療方法
乳がんの治療は外科治療、放射線治療、薬物療法が三本柱です。しかし、誰もが同じ治療を受けるのではありません。それぞれの患者様の乳がんの性質や進行度に応じて個別に治療内容を選択します。進行度・悪性度の高いがんには三本柱を組み合わせて最も治療効果が高くなるように、進行度・悪性度の低い乳がんには不要な治療を行わないように、患者様に最適な治療を提案します。
外科治療
乳がんの手術には、乳房部分切除術(乳房温存手術)と乳房切除術(乳房全摘術)があります。主治医と相談して自分に適切な手術を選択していただきます。
乳房部分切除術
病変とその周囲の正常乳腺だけを切除し、乳房の大部分を温存します。乳房部分切除を選択される方は、乳房内再発を抑制するために原則として術後放射線治療が必要です。放射線治療を省略した場合、術後10年以内に30%の方に乳房内再発を生じるということがその理由です。ただし、ご高齢の患者様は放射線治療を省略しても、さほど不利益はありません。
温存術後の整容性(見た目)は元々の乳房のサイズと病変の広さに左右されます。病変の範囲が広いときに無理に温存手術をしても整容性が劣ることがあります。そのような場合は乳房切除術やご希望により乳房再建手術が選択肢になります。
2013年に乳房再建手術が保険適応になって以降、乳房温存手術の割合は減少傾向にありますが、当院では乳がん手術の約6割に温存手術を行っています。乳房温存手術や良性腫瘍の手術の際は、傍乳輪切開など目立ちにくい小さなキズで切除するようにしています。
病変と周囲1-2cm程度切除する
乳輪に沿って切開すると傷が目立ちにくい
乳房切除術
乳房温存手術を行えない場合や乳房温存を希望されない場合は乳房をすべて切除します。以下のような方には乳房切除術をおすすめしています。
- 病変の範囲が広く、部分切除を行うと乳房の変形が許容範囲を超える
- 病変が乳房中央部に近いため乳頭を温存できない
- 同一乳房内に複数のがんが存在する
- 以前放射線治療を受けている乳房に新しくがんが発生した
- 放射線治療を受けられない持病や事情がある
- 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)と診断されている
- 将来の乳房内再発を極力ゼロに近づけて安心したい
乳房全摘の場合はご希望に応じて同時乳房再建手術(エキスパンダー挿入術)を選択できます(保険適応です)。当院では55歳以下の全摘手術では半数の方が乳房再建手術を選択されています。術後は形成外科医により適切な時期に乳房インプラントや自己組織に入れ替えます。乳房再建は乳房切除と同時に行うのではなく、乳がんの治療が落ち着いたところで行うことも可能です(二次的再建)。
腋窩リンパ節の手術
乳がんは腋窩のリンパ節に転移しやすいので、術前にエコー検査やPET/CT検査で転移の有無を調べます。 腋窩リンパ節に転移がある場合は、原則として腋窩のリンパ節を切除します(腋窩郭清)。腋窩郭清を行うと、後遺症として上肢の浮腫や腋窩周辺のしびれ感が発生することがあります。
術前の画像診断で腋窩リンパ節に転移のなさそうな方には、手術中に数個のリンパ節を生検し、その場で病理診断を行い、生検したリンパ節に転移がなければ腋窩郭清は行わないようにしています(センチネルリンパ節生検)。
最近は早期がんの方が多いため、大部分の患者様がセンチネルリンパ節生検だけで終了します。
放射線治療
乳房温存手術を受けた場合は、温存した乳房に放射線治療を追加するのが原則です。これによって術後の乳房内再発を大幅に減らすことができます。(乳房内再発率は放射線治療を受けなければ10年以内に30%、受けた場合は10%に減らせます。)放射線治療を受けられない事情がある方は原則として全摘手術をおすすめしています。乳房全摘を受けた方は、腋窩リンパ節に転移がなければ放射線治療は不要です。 乳房温存手術でも全摘手術でも、腋窩リンパ節転移が多かった場合(4個以上)は放射線治療を追加することがあります。これによってがんの再発を減らすことができます。
放射線治療は乳がんが転移・再発した場合にも有用です。とくに痛みなどの症状緩和や骨転移の骨折予防に効果があります。
薬物治療
薬物療法は患者様ごとに最適な治療を選択する「個別化医療」が進んでいます。がんの大きさやリンパ節転移個数、免疫組織化学検査によるサブタイプ分類、必要に応じて行う多遺伝子アッセイ(OncotypeDX)、BRCA1/2遺伝子検査、これらの結果を考慮して個々の患者様に最適な治療を提案しています。
薬物療法には、手術後の再発抑制を目的として手術前後に行うものと、転移・再発乳がんの長期生存を目的として行うものがあります。術後薬物療法は術後再発を低減するのが目的ですので、もともと再発率が低いと予想される患者様や超高齢の患者様には必要ありません。
抗がん剤治療は辛いというイメージがありますが、副作用を軽減する薬剤の開発により、嘔気・嘔吐、白血球減少による感染症などは非常に少なくなっています。このため乳がんの薬物療法は原則として通院で行っています(外来化学療法)。
サブタイプ分類
生検組織や切除検体を免疫組織化学検査で調べて、乳がんの性質を分類します。ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳癌(ルミナルA型、ルミナルB型)、ホルモン受容体陽性・HER2陽性乳癌(ダブルポジティブ)、ホルモン受容体陰性・HER2陽性乳癌(HER2型)、ホルモン受容体陰性・HER2陰性乳癌(トリプルネガティブ)に分類されます。サブタイプは、ホルモン療法、抗がん剤治療、抗HER2療法、免疫チェックポイント阻害薬を選択する際の指標になります。
OncotypeDX検査
切除された癌組織で行う多遺伝子アッセイです。ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳がんでは術後の再発抑制のためにホルモン療法を行いますが、再発率をより低減するために抗がん剤治療も行った方がよい場合があります。OncotypeDX検査で再発スコアや抗がん剤治療の効果を知ることによって、抗がん剤治療の必要性や省略可能性を知ることができます。
BRCA1/2遺伝子検査
乳がんの約10%が遺伝性乳がんで、その半数がBRCA1/2遺伝子の異常です(遺伝性乳がん卵巣癌症候群=HBOC)。乳がん家族歴のある方や45歳以下の乳がん、60歳以下のトリプルネガティブ乳がん、多発性乳がんの方はBRCA1/2遺伝子の異常が比較的多くみられるため、検査が保険適応になっています。この遺伝子に異常が見られた場合は手術方法や治療薬選択に特別な配慮が必要になります。ご希望があれば認定遺伝カウンセラーの説明を受け、適切な治療を受けていただきます。