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頭頸部腫瘍センター

頭頸部腫瘍に関する用語集

一般的がん関係の用語

腫瘍とは?

身体の一部の細胞あるいは組織が自律的(勝手)に過剰増殖したものです。一般的にかたまり(塊)を作って増生するので固形腫瘍とも呼ばれます。

悪性・良性とは?
腫瘍そのものが生命を脅かすかどうか、臨床症状から分けられていますが、両者の区別は必ずしも明確ではありません。同じ組織型のなかでも、高悪性と低悪性とに細分類されていたり、良性であっても浸潤性に増殖することもあります。

白斑とは?
白板ともいわれます。粘膜の白色の病変で、がんになりやすいとされ(前がん状態)、10年経過観察すると、およそ10%ががん化するといわれています。原因はわかっていません。

紅斑とは?
一般的に赤みがかった粘膜の糜爛(びらん)、荒れのことをいいます。白斑とともに赤みがかった紅斑症は特にがんを併発しやすいとされており、注意深い局所診察と経過観察が大切です。

悪性腫瘍とは?

病理組織学的に、上皮細胞(体の表面、あるいは内腔の内面を覆う組織)から生じるがん腫(cancer・carcinoma)と非上皮性細胞(間質細胞:支持組織を構成する細胞)から生じる肉腫(sarcoma)の2つに大きく分類されます。その性格は、

  • 転移をする。
  • 破壊的、浸潤的増殖をする。
  • 無制限の増殖の末、宿主を悪液質に陥らせて腫瘍死を引き起こす。

といったことがあげられます。

悪液質とは?
正常細胞への栄養供給が悪性腫瘍によって奪われ全身状態の衰弱、るいそうを生じることです。

がんとは?

病理組織学的にいうところの悪性腫瘍{上皮細胞からなるがん(がん腫・cancer・carcinoma)と非上皮細胞からなる肉腫(sarcoma)}に、白血病、悪性リンパ腫までを含めた意味で使われます。悪性新生物とほぼ同様に扱われます。

造血器腫瘍とは?
造血組織は骨髄とリンパ組織に大別され、造血器由来の悪性新生物には、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫などがあります。

固形腫瘍(こけいしゅよう)とは?
悪性新生物のうち造血器腫瘍を除く悪性腫瘍は、かたまり(塊)を作って増生するので一括して固形腫瘍と呼ばれます。

早期がんとは?

一般的には、TNM分類の評価でSTAGEⅠ期・Ⅱ期のことをいいます。同じ病期であっても部位あるいは組織型によって治療成績は大きく異なってきますので、単純な比較はできません。またAJCC、UICC、日本頭頸部癌学会などいくつかのTNM分類が、おのおのに数年でその定義を改正しているため注意が必要です。

進行がんとは?

一般的にTNM分類の評価でSTAGEⅢ期・Ⅳ期のことをいいます。進行がんも早期がんと同様に、同じ病期であっても部位あるいは組織型によって治療成績は大きく異なってきますので、単純な比較はできません。また、AJCC、UICC、日本頭頸部癌学会などいくつかのTNM分類が、おのおのに数年でその定義を改正しているため注意が必要です。

原発とは?

最初に"がん"ができた火元を原発と呼びます。原発の場所を名前につけて胃がん、舌がんなどと呼ばれます。

転移とは?

最初にがんのできた原発からがん細胞がリンパの流れや血液の流れに乗って飛び、離れたところで病巣を作ることを転移といいます。

リンパ節転移とは?
リンパの流れに乗って飛び火した転移を、リンパ節転移といいます。

遠隔転移とは?
血液の流れに乗って起こす転移を遠隔転移といいます。遠隔転移は肺、骨など原発巣から離れた臓器などに見つかることが多いです。

多重がんとは?

多発がん重複がんをまとめた言い方です。

重複がんとは?
異なる臓器にそれぞれ原発性のがんが存在することです。
がん治療の前後6ヶ月以内に診断されたものを同時性、6ヶ月を超えた場合は異時性と区別することもあります。頭頸部がんでは食道、胃、肺に認められることが多く、たとえば下咽頭がんの初診時には10~20%、口腔がん・中咽頭がんでは5~10%の食道がんが見つかるとされています。

多発がんとは?
同一臓器内に同じ組織型のがんが多発することです。口腔がんの患者様にまれに見られることがあります。

担がん(状態)とは?

がんを体内に持っていることです。がんが完治している時は担がんとはいいません。

扁平上皮がんとは?

上皮とは、体表面や中空臓器を覆っている組織のことで、3種類の上皮が知られています。上皮を構成している細胞の形から、腺(立方)上皮、扁平上皮、移行上皮です。腺上皮は、胃、腸、肺、膵などに存在します。扁平上皮は、皮膚、食道、子宮頸部などに見られます。移行上皮は、膀胱、尿管に見られます。扁平上皮がんは、その形態から扁平上皮起源だということがわかるがん腫をいいます。頭頸部がんの90%以上は扁平上皮がんが占めています。

TNM分類とは?

Tとは、原発部位のがんの大きさ、浸潤の状態を早期であればT1、進行であればT4というように4段階に定義して分類したものです。Nとは所属するリンパ節への転移の進行具合を示します。Mとは離れた臓器への転移の有無を示します。これら3つを組み合わせて、体全体におけるがんの状態つまり進行の程度を病期分類(Stage)として決定します。
がんの種類によっておのおの定義と病期は変わってきます。頭頸部腫瘍に限っても、海外のUICC、AJCC、日本では日本頭頸部癌学会などがそれぞれに取り扱い規約を提唱しており、数年で見直しをすることでおのおの定義の改正を行っています。

禁煙とは?

喉頭がんにおいては、喫煙歴は肺がんより高い危険率が示されています。他部位の頭頸部がんでも喫煙による危険率は高く、アルコールはその発がん性をさらに高めていると考えられています。長期間の喫煙後の禁煙は少なくとも6年以上禁煙しないと効果は生じないともいわれています。喉頭がんの治療後に禁煙することで二次がんのリスクは2分の1に低下するともいわれています。

飲酒とは?

頭頸部がんの発生に高濃度、大量、長期間の飲酒は強い危険因子とされています。日本酒の量にして1合は焼酎の0.6合、泡盛0.5合、ビール大瓶1本、ワイングラス2杯、ウイスキーダブル1杯のアルコール量に換算されます。1日3合以上の飲酒では危険率が上がるとされています。また喫煙によってさらにその危険率は助長されることがわかっています。

インフォームドコンセント(IC)とは?

医療行為(投薬・手術・検査など)の対象となる患者様やご家族が、治療や臨床試験/治験の内容についてよく説明を受け理解した上で(informed)、方針に合意する(consent)ことです。説明の内容としては、対象となる行為の名称・内容・期待されている結果のみではなく、代替治療、副作用や成功率、予後までも含んだ正確な情報を提供することが望まれます。

緩和医療とは?

根治・治癒をめざした積極的な治療法がなくなった患者様とご家族に対し、残された時間の生活の質の向上のために、痛みをはじめとした身体的、精神的な苦痛の除去を目的とした医療です。鎮痛剤などを用いて、終末期に臨む時期のクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を最大限高めることを目標とします。

検査・診断に関する用語

臨床診断とは?

症状をたずねたり(問診)、見たり(視診)、触ったり(触診)、聴いたり(聴診)、血液検査やレントゲン写真を撮った結果を総合した推定診断のことです。

病理診断とは?

病理学的検査とは?
病気の組織や細胞を患者様の体より採取して顕微鏡用のプレパラート(標本)を作り、顕微鏡で観察して組織あるいは細胞の形態を観察して診断することです。
病理検査は病理解剖、外科病理、細胞診断に大別されます。

  • 病理解剖
    病院で病気により亡くなられた患者様に対して行われます。全身組織を検索し、所見により病理解剖診断を行い今後の医療に役立てます。病理解剖は臨床上の疑問点に答える、あるいは疾患の成り立ちを解明しうる手段です。
  • 外科病理
    手術により摘出された組織、あるいは生検により試験切除された組織に対する病理診断のことです。手術材料ではその組織型の決定と、手術断端への腫瘍浸潤の有無と、転移リンパ節の数を確認します。その結果によって予後を推測し、術後の治療方針を決定する資料とします。
  • 細胞診断
    自然剥離(尿、喀痰)または穿刺吸引などによって人為的に採取した細胞(子宮頸管、内膜擦過、甲状腺、乳腺などの穿刺吸引)の標本のプレパラートを作り診断を行うことです。その目的は悪性腫瘍細胞のスクリーニング検査ですが、甲状腺乳頭がんなどでは確定診断になりうることもあります。

術中迅速病理検査とは?
手術により摘出された組織をその場で凍結させた切片の標本として病理組織診断を行うことです。迅速な術式の決定、変更などにとても大切な検査ですが、あくまで迅速診断ですので確定診断は術後の外科病理診断が必要です。

細胞診とは?

擦過細胞診とは?穿刺細胞診とは?穿刺吸引細胞診とは?

FNA: Fine Needle Aspirationとは?
病理組織検査が生体の一部分を切除して、非常に多数の細胞から構成された組織形態を観察して診断するのに対して、細胞診とは自然剥離または穿刺吸引などによって人為的に採取した細胞の塗抹標本から背景の所見、細胞集塊の規則性、細胞1個1個の形態など細胞をみて診断を行います。切開を必要とせず、綿棒や鋭匙で擦り取ったり(擦過細胞診)、注射器の針で吸引(穿刺細胞診、穿刺吸引細胞診、FNA、ABC)するため外来で比較的手軽に患者様にあまり大きな負担をかけずに行えるという利点があります。

喀痰細胞診とは?
朝一番の喀痰を3日間集めてきていただいて細胞診断を行うことです。病院でお渡しする容器に集めていただいています。

生検とは?

皮膚、粘膜に切開を入れて部分的に腫瘍の一部を切り取って病理組織学的検査に提出することです。

鼻・咽腔ファイバーとは?

外来で鼻腔、上・中・下咽頭、喉頭を観察するために使う直径3~4mmほどの細く柔らかいファイバースコープのことです。鼻から麻酔を噴霧したあと挿入して観察します。緊張さえしなければあまり苦痛はありません。

CTとは?

Computed Tomographyの略でコンピュータを使った断層画像のことです。患者様には寝台に乗っていただき、寝台がCT装置の真ん中に空いた大きい穴の中を通る間に、360度の方向からエックス線を当てて検出することで得られたデータから、コンピュータを使って体の輪切りの画像を作り出します。MRIと比べると人体の骨組織が良く描出され、撮影時間も短く費用もわずかですが安くすみます。CTの情報量の精度を上げてより詳しい情報を得るために、頭頸部の検査では造影剤を注射しながら撮影をしますが、ヨードアレルギーのある方は造影剤が使えませんので注意が必要です。肺の検査では造影剤を使わずに撮影することがほとんどです。検査前の食事の制限が必要かどうか、造影剤を使うのかどうか、事前の確認が必要です。

MRIとは?

Magnetic Resonance Imagingの略で、日本語では磁気共鳴画像法という磁石の力で人体の輪切り画像を撮る断層画像のことです。画像を撮るためには強い磁力の中へ入るので、心臓ペースメーカーなどの体内に金属の埋め込まれた方は撮影ができません。また磁力によってキャッシュカードのデータは消えますし、ヘアピンなどの金属は飛んでしまいますので事前に必ずこれらのものがないかどうかのチェックをします。CTと比べると人体の軟部組織に対するコントラストが良く描出されるうえ、縦、横、斜めの断面を自由に設定できるなどの大きな利点があります。また放射線による被曝がないため、安心して検査を受けることができるといわれています。

PETとは?

陽電子放出断層撮影、Positron Emission Tomographyの略です。がん細胞は正常な細胞の3~8倍ものブドウ糖を取り込む性質があります。PETでは、ブドウ糖によく似た、ごく微量の放射線を出す「薬」(FDG)を注射し、がん細胞にFDGが集まる様子を画像化して、がんの有無、場所、大きさを特定します。CTやMRIが形態的画像評価であるのに対して機能的画像評価法です。一度に全身を検査することができますので、複数のがんや転移を見つけるのに役立ちます。時々、100%がんを見つけることができる完璧な検査とか、CTMRIよりも精度の高い検査だと誤解している方がいらっしゃいますが、検査する方法、評価の方法が違うということであり、PETでは逆に発見しにくいがんもあり、CTMRIも有用な検査であることに依然として変わりはありません。互いに補い合うことでより正確な精度の高い検査が可能となります。

PET-CTとは?

PET(機能的画像)とCT(形態的画像)を同時に撮影することで、より見やすく精度の高いPET検査が行えます。また一度にPETとCTが撮影できるので、検査時間が短縮できます。

超音波検査(エコー)とは?

人の体(臓器)に超音波を当てて、反射の強弱と、時間の差を画像に変換して診断をする検査です。その仕組みが、やまびこに似ていることより、別名:エコー検査(または単にエコー)ともいわれています。無害なのでお母さんのお腹の中の胎児を見るのにも使われますし、最近では人間ドック、検診などでも用いられています。機械さえあればいつでもどこでも何の準備もなく検査ができる利点があります。頭頸部では甲状腺の疾患や、リンパ節の評価には欠かせない重要な検査です。

上部消化管内視鏡検査とは?

口から内視鏡を飲み込み、食道・胃・十二指腸の内部を十分に観察する検査のことです。中に空気を送り込み、食道、胃を風船のように膨らませ、クスリで粘膜表面を染めて観察します。頭頸部がんには重複がんの頻度が高いことが知られており、治療前のみでなく治療後にも定期的に必要な検査のひとつといえます。

腫瘍マーカーとは?

特定の腫瘍が血液中に分泌する物質のことで、患者様の血液で検査するものです。がんでない人の血液の中にも腫瘍マーカーの異常値が見つかることがあるため、腫瘍マーカーが検出されたからといって、必ずしもがんであるとは限りません。とても多くの種類がありますが、頭頸部がんにおいてはあまり鋭敏な腫瘍マーカーは見つかっておらず、治療の有効性や再発の有無を知るために利用する程度にとどまっています。

頭頸部腫瘍に関する用語

■部位に関する説明■
頭頸部とは?

頭頸部とは脳より下で、鎖骨より上の領域のことを意味します。ただし整形外科の領域である脊椎(背骨)や、脳外科の領域である脳腫瘍や脳血管障害といった頭の中(頭蓋内)の疾患は含まれません。従来の耳鼻咽喉科、口腔外科、内分泌甲状腺領域ということになります。ここに生じるがんを総称して頭頸部がんと呼びます。
解剖学的には、頭蓋底、口腔、咽頭、喉頭、鼻・副鼻腔、甲状腺、唾液腺、頸部食道などが主な部位となります。これらの部位がさらに細かな部位(亜部位)に分けられてそれぞれに名前が付けられています。そのために同じがんでも病名は微妙に違う言い回しとなることがあります。たとえば舌根(亜部位)がんは中咽頭(部位)がんであり、頭頸部(領域)がんでもあるわけです。頭頸部がんの発生頻度は全身のがん全体の5%未満です。

頭蓋底とは?

脳を入れている頭蓋骨の底のことで、脳に出入りする重要な神経や血管がすべて通る、大変複雑な構造の場所です。ちょうど目や耳の奥にあり、脳神経外科・耳鼻科・眼科などの領域の境界にあたります。構造が複雑なうえに眼や脳といった重要臓器の深部にあたるため、手術不可能な場所、触れてはいけない場所といわれてきましたが、この20年の医学の進歩により、安全な手術が行われるようになりました。しかしまだまだこの部門に詳しい脳神経外科・耳鼻科の医師は少ないといわざるをえない状況です。
当院では2007年4月に日本で初めての頭蓋底外科センターとして、この部門をセンター化して治療に取り組んでおります。

鼻・副鼻腔とは?

空気の通り道は顔の左右2つの鼻孔から始まります。その奥にある鼻腔は鼻中隔で左右に分かれ、上咽頭へとつながっています。鼻腔の左右に眼窩を取り囲むようにあるのが副鼻腔です。鼻腔に隣接した骨内に作られた空洞であり、ヒトでは前頭洞、篩骨洞、上顎洞、蝶形洞の4つに分かれ、それぞれの内壁は鼻腔同様に粘膜で覆われていて、穴や管によって鼻腔とつながっています。

口腔とは?

一般的にいわれている口の中のことです。さらに亜部位として上歯肉、下歯肉、硬口蓋、軟口蓋、頬粘膜、舌、口腔底に分けられます。

上咽頭とは?

鼻腔のつきあたりで、口を開けた時に見える軟口蓋、口蓋垂、および扁桃腺の上後方の部位をいいます。さらに後上壁、側壁、下壁の亜部位に分けられます。

中咽頭とは?

口を大きく開けた時、口の奥に見える場所をいいます。さらに前壁の舌根、喉頭蓋谷、側壁の口蓋扁桃、扁桃窩、口蓋弓、舌扁桃溝、後壁と上壁の軟口蓋下面、口蓋垂の亜部位に分けられます。

下咽頭とは?

喉頭の後ろの食道への移行部にあたります。上方の中咽頭から空気と食事がひとつの道で流れてきます。空気は前方の喉頭へ流れますが、食事は後方の下咽頭へ振り分けられさらに食道へ流れていきます。

頸部食道とは?

下咽頭より下で鎖骨より上部に位置する範囲の食道をいいます。

喉頭とは?

いわゆる"のどぼとけ"といわれる場所にあたり、呼吸、嚥下、発声、の機能を司ります。上方の中咽頭から空気と食事がひとつの道で流れてきます。空気は前方の喉頭へ流れ、食事は後方の下咽頭から食道の方へうまく振り分けられて流れていきます。この嚥下と呼吸の機能に関わるほか、喉頭には声帯があり発声という大切な機能をもっています。

唾液腺とは?

左右一対の耳下腺、顎下腺、舌下腺の大唾液腺と、粘膜下に分布する小唾液腺があります。

耳下腺とは?

唾液腺の中の最大の腺で、耳介の下に左右一対あります。子供が"おたふく"で腫れることで知られているところです。腺内を顔面神経が走行しており神経より表層を浅葉、深層を深葉と呼んでいます。顔面神経は顔の表情筋を支配していますので麻痺により、まぶたが閉じない、顔のしわがなくなる、口角から水がもれる、ほほを膨らませられないといった症状が出ます。

顎下腺とは?

耳下腺の次に大きな唾液腺で、左右の顎の下にあります。唾石ができやすいことで知られています。

副咽頭間隙(傍咽頭間隙)とは?

耳下腺咽頭の間、上方は頭蓋底から下方は舌骨(ぜっこつ=舌の付け根の骨)の高さに存在します。ここには脂肪と結合組織の間に、多くの重要な神経や血管があります。

甲状腺とは?

頸部の正面下方、喉頭(のどぼとけ)の下方、鎖骨・胸骨の上に気管を取り巻くように位置しています。蝶のような形で全身の細胞の新陳代謝に関与するホルモンを分泌しています。

副甲状腺(上皮小体)とは?

言い回しの違いだけで同じ臓器のことをいいます。甲状腺の後ろ側にある米粒大の4~5個の臓器のことで、体のカルシウムとリンを調節するホルモンを分泌しています。

■機能・病状に関する説明■
嚥下とは?

摂食時の飲み込む行為のことです。普段は食物を口腔より胃に確実に送り込むことができているため、水分や食物が気管から肺に入り込み、むせるようなことはありません。

誤嚥とは?

誤嚥性肺炎とは?
本来であれば、食道から胃に到達すべき水分や食物が気管から肺に入り込むと、むせ・咳き込みや発熱を引き起こします。これが原因となり重篤な肺炎(誤嚥性肺炎)になることです。

反回神経麻痺とは?

反回神経とは、喉頭の声帯の動きを支配する神経です。この神経は脳神経の迷走神経から分岐します。迷走神経の左側は脳から下方へ走行し、反回神経となって胸部の大動脈弓を回り込んで上方に方向を変え、右側では下方の鎖骨下動脈を回り込んで上方へ方向を変えて、両側とも甲状腺の裏を通って喉頭へ入ります。この変わった走行から反回神経と呼ばれています。この神経が麻痺を起こすと声のかすれ(嗄声)が出てきます。神経は脳から頸部(左ではさらに胸部)を長く走行するため、反回神経麻痺の原因を考えるには、脳内、頸部、胸部、甲状腺などの広い範囲を検査しなければなりません。

高カルシウム血症とは?

血中のカルシウム濃度が高くなった状態のことです。疲労倦怠感、悪心、嘔吐、多飲、多尿、うつ状態などの症状がひどくなると意識障害を起こし生命を脅かします。カルシウム剤内服中に脱水を起こした時や、悪性腫瘍から分泌されるホルモンによる場合などがあります。点滴による水分の補給を中心にさまざまなクスリで対応しますが、最近では、ビスホスホネートというクスリで対応されることが多くなってきました。

低カルシウム血症とは?

テタニーとは?
血中のカルシウム濃度が低くなった状態で、末梢神経の興奮性が高まり筋肉がけいれんを起こすことです。助産婦様手位といわれる指を開き手関節を屈曲した状態の手の痙攣や、初期には手指や足指あるいは口唇周囲の異常感覚やしびれで発症することが多くあります。カルシウム剤を点滴することですみやかに改善を認めます。

■クスリに関する説明■
チラジン(チラージン)とは? チラジンSとは?

甲状腺ホルモンの内服薬です。甲状腺機能が低下(橋本病など)すると、寒がりになったり全身倦怠感やむくみがでます。腫瘍の治療ため甲状腺が切除されたり、放射線療法の影響で甲状腺ホルモンの分泌が少なくなった時に処方されます。血液検査で適正量を確認して内服する限り障害、副作用はほとんどありません。

ワンアルファ・アルファロールとは?

腫瘍の治療ため甲状腺と一緒に副甲状腺(上皮小体)が切除され、副甲状腺ホルモンが少なくなると血液中のカルシウム濃度が低下するため処方します。活性型ビタミンDという製剤です。腸壁からのカルシウムの吸収促進、骨からのカルシウムの溶出、腎臓でのカルシウム排泄抑制によって、血液カルシウム濃度を上げるように働きます。

乳酸カルシウムとは?
カルシウム不足を補うためのカルシウム補給のクスリです。ワンアルファやアルファロールと組み合わせて処方されます。

■抗がん剤の説明
CDDP(シスプラチン)とは?

シスプラチンという白金製剤の抗がん剤のひとつです。点滴で使用されます。さまざまな固形悪性腫瘍に対して幅広い適応があります。副作用としては悪心や嘔吐がほぼ必発のほか、腎障害などの副作用が強いため腎機能のチェックと、大量の点滴で尿量を確保する必要があります。骨髄抑制はそれほど強くありません。末梢神経障害や聴力障害抗が時にあらわれます。頭頸部領域ではよく5‐FUと組み合わせて使用されます。

CDBCA(カルボプラチン)とは?

カルボプラチンというCDDPの腎毒性を軽減する目的で作られた化学療法剤です。点滴で使用されます。その投与量は腎機能を考慮してCalvert式で決定するのが一般的です。CDDPと比べ腎障害の副作用は弱く大量の点滴も必要ありません。しかし、2週目以降にCDDPではさほど強くない骨髄抑制(白血球減少、血小板減少等)が出てくるため、注意が必要となります。

5-FUとは?

ファイブエフユーという抗がん剤のひとつです。点滴で使用されます。2週目以降、骨髄抑制(白血球減少、血小板減少等)が出てくるため注意が必要です。皮膚・粘膜への影響が強く口内炎、下痢、点滴注入部に色素沈着など認めることがあります。頭頸部領域ではよくCDDPと組み合わせて使用されます。

DOC/TXT(ドセタキセル)とは?

タキソテールという比較的新しい抗がん剤のひとつです。点滴で使用されます。骨髄抑制(白血球減少、血小板減少等)が起こるため注意が必要です。皮膚・粘膜への影響は軽度ですが、脱毛が多くの場合で見られます。

TS-1とは?

5-FUの内服薬で、比較的新しい内服の抗がん剤のひとつです。最大限の効果が出るよう体内の5-FUの分解酵素の阻害剤と消化管毒性を軽減させる成分を配合させています。副作用としては骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少等)がもっとも多く、悪心や嘔吐、皮膚・粘膜への影響もあります。採血をチェックしながら、2~4週内服後2週間内服を休むという飲み方を繰り返します。

治療に関する用語

生存率とは?

がん治療の観察開始から普通5年後に生存されている方の割合(5年生存率)をいいます。観察開始とは初診日であったり治療開始日であったりと決まってはいません。生存という意味も再発せずに生存している人の割合であったり、再発していても生存している人の割合であったりと決まっていません。もともとの対象とするがんによる死亡のみを死亡として判定する疾患特異的生存率や、経過中どのような理由によっての死亡もすべて死亡と判定する粗生存率、あるいは3年後で評価した3年生存率など定義はいろいろで一定していませんから、ただ単純に生存率とされた数値だけを見て比較することはたいへん危険です。

標準的治療とは?

異なる治療法を比較した臨床研究の結果、エビデンス(科学的な根拠)として治癒率、再発率などがわかっている治療で、国際的にもより優れた治療法と認識されている治療法のことです。

一般的治療とは?

標準的とまでは認められないが多くの人がその有効性を認め、広く受け入れられ、行われている治療法のことをいいます。

研究的治療とは? 試験的治療とは?

治療効果を上げたり、副作用を減らしたりする目的で考案された新しい治療法で、有効性の確認を兼ねて行われる治療法のことです。
研究的治療と標準的治療の優劣は数年後にしかわかりませんので、新しい治療法が必ずしも良い結果になるとは限りません。医学、医療の進歩により研究的治療の一部が標準的治療になっていきます。

セカンドオピニオンとは?

他の医療機関に行ってそこでの診断・治療方針を聞くことです。患者様の当然の権利であり、紹介状やレントゲンなどそれまでの検査資料の貸し出しなどを求めることができます。ただし保険診療外の扱いになるため、30分から1時間あたりの費用が施設によって異なります。事前に電話で受診予約と費用の確認をしておくことをお勧めします。

放射線療法とは?

エックス線や電子線、ガンマ線などの放射線を使ってがんを治療することです。がん細胞の遺伝子にダメージを与えてがん細胞を壊します。正常組織に重度の有害反応がでないようにするため、放射線は一定量以上は同一部位に照射することはできません。

有害反応とは?

放射線はがんの周囲の正常組織にも影響を与えます。この中での有害な反応は、照射中に起こる急性反応と、照射後数ヶ月後に起こる遅発性反応があります。その程度は個人差が大きく個々の治療法によっても大きく変わってきます。一次的で治るものと、治らないものがあります。

【急性有害反応とは?】
全身症状:倦怠、食思不振、悪心などがあります。日内差があるため午後に昼寝をとったり、薬で対応することで軽減を図ります。
粘膜症状:照射野内の粘膜に炎症を生じ疼痛をともないます。刺激物の摂取を避け、禁煙、禁酒に努めます。栄養指導や含嗽、内服により対応しますが、重症の場合は照射を途中で休止とすることもあります。
皮膚症状:色素沈着、糜爛(びらん)、脱毛などがあります。

【遅発性有害反応とは?】
顔貌の変化:皮下組織のリンパのうっ帯により"お多福"様変化をきたします。日内差があり起床時に増強を認めますが時間とともに改善します。
口内乾燥・唾液腺の変化:唾液の分泌量が低下します。味覚にも変化が現れます。水物を多めに取るようにしたり、人工唾液、最近は内服の薬などで対症的に対応します。
下顎骨壊死:放射線療法により露出した歯槽の抵抗性が低下するため感染を起こし壊死となることをいいます。この予防策として、照射野内の抜歯は禁忌となります。
狭窄、開口障害(咽頭嚥下困難・食道嚥下困難):照射による粘膜下組織の繊維化や筋肉の拘縮により起こります。ブジーという拡大器や開口のリハビリで対応します。
声の変化:わずかな嗄声、声質の変化を認めることがあります。
甲状腺機能低下:自覚症状がない場合も多く定期的な採血による甲状腺の機能チェックが必要です。
眼球症状:水晶体に照射されると白内障になりますが、手術によって視力の回復が期待できます。視神経、網膜に照射が一定量以上かかることによる視力障害は回復が困難です。
耳症状:中耳炎、難聴をきたすことがあります。

リニアックとは?

直線加速器という、放射線を作り出す機械のことです。

Gy(グレイ)とは?

放射線の量をあらわす単位のことです。通法では1回2Gyを照射します。30回照射すると60Gyということになります。

位置決めとは?

正確に放射線を当てるための準備のことです。頭頸部ではシェルと呼ばれるお面のような固定具を作成し、体の固定を確実にしたうえで、レントゲン写真やCTをとって放射線をかける範囲と線量が決められます。目印となる印を皮膚につけることもあります。

外照射とは?

体の外から放射線を当てることです。通常1日1回で月曜から金曜まで週5回の治療を6~7週行います。

小線源・組織内照射とは?

がんの近くあるいは中に直接放射線物質を入れて体の中から放射線を当てることです。外照射より短時間で多くの放射線を当てることができますが、医療従事者への被爆の問題や技術が高度なことから現在では限られた施設でのみ行われています。

手術療法とは?

手術の目的から、体から切除によってがんを取り去ることを目的とした摘出術・切除術と、切除による組織の欠損からくる機能障害を最小限にすることを目的とした再建手術があります。
がんの手術では、がんは見た目以上に細胞レベルで広範に広がっている(浸潤)ことが多いため、健常に見える周囲の組織をつけて(安全領域)切除します。

安全領域・セーフティマージンとは?

がんは見た目や触った硬さ以上に肉眼的には正常に見える周囲組織に細胞レベルで広範に広がっていることが多いため、がんの周囲の正常組織を場所により10~30mmの大きさでがんと一緒に切除することです。

浸潤とは?

がんが周囲の組織に広がることです。組織型によっては、神経にそって周囲に浸潤する性質のがんがあります。これを神経周囲浸潤といいます。

頸部郭清術とは?

頸部のリンパ節とリンパ節とは、リンパ管によってネットワークを形成しています。頭頸部がんの最初の転移は一般的には頸部のリンパ節に認められます。手術前の検査で転移リンパ節は1個だけ(あるいは0個)だったとしても、1未満の大きさのリンパ節転移(転移の初期)の検出には限界があります。そこで転移が起きることが多いとわかっている領域に含まれるリンパ節を周囲組織ごと掃除(切除)することを郭清といいます。生命にとって大事な血管、神経などは保存しますが、これまでの経験でわかっている安全性を考慮しながら、筋肉、血管、神経をどこまで保存するかを判断し、大切な構造を無駄に切り取ることがないようにしています。

再建手術とは?

切除による欠損が大きい場合、たとえば舌の半分近い切除では術後時間がたつにつれ残存した舌は小さく硬く引きつれ(瘢痕拘縮)、動きが悪くなり、嚥下や言葉が不自由になります。中咽頭・下咽頭・食道がんでは切除後には消化管の形態が失われ食事の通り道そのものがなくなります。そこで、残された器官の一部分が、その残された機能を障害されることなく最大限に発揮できるようにするため、また、頸部の大血管や神経といった重要組織への唾液の流れ込みによる感染を予防するため、欠損部に血流のよい柔らかい組織を移殖することを再建術といいます。組織を欠損部位に移行する方法としては、血流を維持したまま(栄養血管を切り離さずに)組織を移動させる有茎皮弁手術と、いったん血管を切離して、頚部の血管と吻合する遊離皮弁手術があります。この血管の直径はだいたい2~3mmで、顕微鏡を用いて拡大した視野のもと吻合します。
ここで注意しないといけないことがあります。再建には限界があるということです。がんが発症する以前の形態・機能へ完全に再建できるものではありません。手術で残した正常組織の機能を最大限に温存・発揮させるための再建手術です。8割の切除量であれば残った2割の機能を最大限に発揮させるためのものです。しかし一方で、術後のリハビリテーションを行うことで、かなりの機能回復が期待できます。
また本来病気のない場所から移植組織を採取しますので、腸であれば術後腸閉塞、前腕部であれば指の違和感などの合併症の可能性や、がんとは関係ない体の正常部分に傷が残ります。

【再建術の早期合併症:(手術直後から2週間頃までに起こりうる合併症 )】
血管吻合部の血栓・皮弁の壊死・部分壊死:
再建手術で行う血管吻合は直径が2~3mmで、顕微鏡で拡大して縫合します。成功率は97%ぐらいで、3%の確率で縫合部に血の固まり(血栓)ができると血流が途絶えて移植した組識が死んでしまいます(皮弁の壊死)。早期に発見すれば、血栓の除去で大事にはいたらないこともあります。
縫合不全: 縫合部にほころびが生じることがあります。術直後の口腔内は唾液がたまった状態になるため、わずかなほころびから唾液が頸部の傷に入り込み感染を併発することがあります。創部の開放・洗浄を行い、場合によっては再手術で対応せざるえないこともあります。
感染症: 鼻腔や口腔には様々な細菌が常に棲息しているため、頭頸部の長時間の手術では、創部の感染症(化膿)を起こす可能性があります。創部の開放・洗浄を行います。場合によっては、臨時の再手術となることもありえます。

遊離空腸再建とは?

下咽頭がん、頸部食道がんなどの切除後に行われます。お腹から採取してきた空腸(小腸の一部)で食事の通り道を再建します。頸部の血管と空腸の血管を吻合し血流を確保します。

腹直筋皮弁再建とは?

舌がん、中咽頭がんなどの切除後に行われます。食事の通り道と誤嚥の予防に必要な口腔内のボリュームを確保するためお腹から腹直筋と皮膚とその栄養血管をつけて採取して再建します。頸部の血管と腹直筋の血管を吻合し血流を確保します。

前腕皮弁再建とは?

舌がん、口腔がん、中咽頭がんなどの切除後に行われます。食事の通り道を作るため前腕から皮膚とその栄養血管をつけて採取してきて再建します。頸部の血管と前腕皮弁の血管を吻合し血流を確保します。薄さやしなやかさが必要な時に選択されます。

外側大腿筋皮弁とは?

最近広く使用頻度が増えてきた方法です。大腿から採取してきて再建します。頸部の血管と大腿皮弁の血管を吻合し血流を確保します。前腕皮弁に似た薄くしなやかな皮弁でありながら、大腿採取部の傷跡が他の皮弁と比べあまり目立たない利点があります。

救済手術とは?

初回治療(放射線、手術)後の残存、再発に対して行う手術のことです。

血管吻合とは?

遊離空腸や腹直筋皮弁というような頭頸部領域以外の離れた部位の血流のよい組織を、いったん血管を切離し遊離させた後、がん切除によってできた欠損部に移殖するため、血流を再開させるために頸部の血管と顕微鏡を用いて拡大した視野のもとで吻合することです。

下咽頭・喉頭・頸部食道切除術(咽喉食摘)とは?

多くの下咽頭がんに適応となる術式です。喉頭および下咽頭の全部と頸部食道の一部または全部を切除します。切除後の欠損部は、腸の一部または皮膚を移植して食物の通り道として再建されます。喉頭(声帯)は全部切除され、頸部の前方に呼吸するための孔(気管孔)を作り呼吸の道を作成します。
嚥下と呼吸の機能は再建されますが、声帯での発声はできなくなるため、食道発声の習得や、人工喉頭などの器具や、シャントチューブなどの人工物を小手術で挿入することで発声のリハビリテーションをしていただきます。

食道抜去術とは?

胸部を大きく開かず(非開胸で)に、食道を頸部と腹部から抜き取るような術式のことです。術後は胃を用いて食道の代用とするのが通例です。創は頸部(場合により頸部に続く前胸部も)と腹部の2カ所となります。下咽頭がんの食道方向への浸潤が厳しい時や、重複がんとして早期の食道がんを持っていた時に行います。

胃管とは?

胸部の食道が全摘除された後、胃を持ち上げて頸部まで届くような管を作り、咽頭または頸部食道の粘膜と縫い合わせて食物の道を作ります。下咽頭がんが食道まで深く浸潤している時や食道にもがんがある時、何らかの理由で腸の移植ができない場合などに行います。

下咽頭部分切除術とは?

自然の声を温存するために喉頭の一部あるいは全部を保存し、下咽頭の一部のみを切除する方法です。がんが喉頭浸潤していないか、浸潤していても軽度の場合に行います。
切除後は欠損部を縫い縮めたり、腸や腕の皮膚の移植で欠損部をうめて食物の道を再建します。気管孔は手術後一時的には必要ですが、一般的には閉鎖することができます。ただし本来の喉頭・下咽頭嚥下の機能が切除とともにその切除範囲で失われるため、飲み込みの力が落ちます(50%切除されたら50%以下の機能しか残らない)。手術の適応は限られており術後のリハビリテーションがとても大切となってきます。

喉頭レーザー手術とは?

がんが喉頭の一部位に限局している場合に(早期がん)、全身麻酔下に口腔内から視野をとってレーザーを使ってがんを切除します。切除範囲によっては多少声質がかわりますが、自然の発声機能が温存され頸部に傷跡も残りません。喉頭がんの他の治療と比べ治療期間が最小ですみます。

喉頭部分切除術とは?
がんが喉頭の一部位に限局している場合に(早期がん)、喉頭を部分的に切除して発声機能を残します。喉頭を垂直に切除する垂直部分切除と水平に切除する水平部分切除があり、それぞれに適応、合併症が異なります。欠点は、喉頭の一部分しか残らないため、垂直部分切除では温存された声質がいまひとつであること、水平部分切除では食べ物や水が気管に入ってしまう誤嚥が起きやすいことです。発声と嚥下のリハビリテーションが必要で、患者様の意欲と体力があること、病院にきちんとした音声と嚥下のリハビリテーション体制があることが重要となります。

喉頭亜全摘術とは?

喉頭部分切除術よりさらに大きく部分的に切除し発声機能を残します。およそ喉頭の4分の3を切除するため、食べ物や水が気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)が、手術後ほぼ必ず起きます。発声と嚥下のリハビリテーションが必要で、患者様の意欲と体力があること、病院にきちんとした音声と嚥下のリハビリテーション体制があることが重要になります。

喉頭全摘とは?

喉頭がんに対して最も一般的に行われている術式です。喉頭をすべて摘出するため自分の声を失うことになります。術後に食道発声の習得や、人工喉頭などの器具を使うことや、シャントチューブなどの人工物を小手術で挿入することで発声のリハビリテーションをしていただきます。普通、再建手術は必要ありませんが、非常に進行したがんや、放射線後の再発などの場合には再建術が必要になることがあります。

化学療法とは?

細菌・ウイルス・真菌などによって起こる疾患に化学物質を与えて治療することを意味していましたが、近年は、悪性腫瘍に対して抑制的に働く化学物質(抗がん剤)を与えて治療する意味でも使われています。
その治療にあたる時期、目的によって術前化学療法(手術療法前に行う)、補助化学療法(手術療法あるいは放射線療法後に行う)、化学療法同時併用放射線療法(化学療法放射線療法を同時に行う)などさまざまな呼び方をします。

集学的治療とは?

手術療法・化学療法・放射線治療を併用して根治をめざす治療のことです。

プロテーゼ・顎義歯とは?

話す、噛む、食べるなどの口の機能の回復をはかるために、欠損部を補填修復する大きな入れ歯のような人工物のことです。

食道発声とは?

空気を口から吸い込み食道の中頃で止めたあと、瞬時にその空気を逆流させて(おくびの要領)食道の入口部の粘膜を振動させた振動音から声を作ることです。手を使わずにすぐ話ができるなど利点が多く、全国各地に食道発声の教室があり指導が丁寧に行われています。

人工喉頭とは?

道具を使った発声方法のことで、笛式人工喉頭と電気人工喉頭とがあります。後者は電気的に音を発声する装置を顎下部または頤(おとがい)に当てて、ブザー音を口腔に取り入れて構音する方法です。あまり練習がいらず、疲れないなど利点はありますが、非生理的で、常に片手が必要なことなど不利な点があります。

気管孔とは?

咽頭、喉頭に病気があって喉頭を摘出した時、呼吸をするために下頸部に気管を縫いつけて作られた呼吸をするための丸い穴のことです。これを永久気管孔といい、普通の気管切開と違い一生閉じることはできません。

気管切開とは?

咽頭、喉頭に病気があるために、あるいはその部分に手術、放射線などの操作が入る時、周囲組織が腫れてしまうため、誤嚥したり、呼吸ができなくなることがあります。そこで腫れている場所より下方の気管に穴を開けて呼吸の道を確保することです。呼吸はできるのですが、声が一時的に出せなくなります。腫れや気管切開の傷の回復の状態をみて時期がくれば特殊な声を出せる呼吸の管に変えることで声は出せるようになります。さらに腫れの状態が良くなれば最終的にはテープか縫合で気管孔は閉鎖されて元通りの状態に戻ります。

各部位別の用語

聴器がんとは?

頭頸部悪性腫瘍の約1%を占めるまれな腫瘍です。発生場所により耳介がん、外耳道がん、中耳がんなどに区分されます。わずかな腫瘍の存在部位の違いによって治療成績は大きく変わってきます。標準的治療は手術です。小さく限局した腫瘍のときには放射線療法が選択される事もあります。一塊切除がむずかしい場所であるため、放射線療法化学療法を手術の前後にくわえた集学的治療となることもあります。

上顎(洞)がんとは?

上顎洞は副鼻腔のなかで最大の空洞です。この上顎洞に発生したがんを上顎がんと呼びます。鼻・副鼻腔がんの大部分は上顎洞がんであり、頭頸部悪性腫瘍の7~8%をしめます。副鼻腔炎(蓄膿症)の減少とともに上顎がんの発生頻度は近年減少の傾向にあります。頸部リンパ節転移は少なく、初診時から転移のある症例は10~20%ほどです。がんの根治切除を優先し上顎全摘を積極的に行う施設と、一塊切除にこだわらず放射線療法化学療法手術療法の三者併用による機能と形態の保存を重視する施設があり、標準的治療はまだ確立されていません。放射線療法、化学療法、手術療法をいかに効率よく組み合わせるかで、早期がんには最大限機能と形態の温存に努め、進行がんにはがんの根治性を最優先にしますが、がんの進展方向を考慮しつつ、部分的に手術を縮小することもあります。

【症状】
早期の段階では上顎洞という骨のなかに収まっているため自覚症状のないことが多いのですが、時に副鼻腔炎の急性増悪時の症状(鼻閉、膿性、血性の鼻漏など)を呈することがあります。進行すると上顎洞の骨を破壊して周囲の組織へ浸潤するためさまざまな症状がでてきます。

鼻症状:鼻閉、鼻出血、悪臭のある鼻漏、頭痛などの症状です。

眼症状:眼球の偏位で物が二重に見えたり、涙・目ヤニが出る、眼球が突出するなどがみられます。

口腔症状:はぐきの腫れ、歯痛などがみられます。

顔面症状:顔の腫れや痛みがみられます。

【診断】
外来で細いファイバーを使った一般的な視・触診の後、骨につつまれた空洞内のがんという特性のため、CT、MRIなどの画像診断を行ってがんの状態を評価します。がんという最終的診断は病理組織検査を行います。病理組織検査は、がんが視診で見える場合は外来で行いますが、見えない場合は入院のうえで上歯肉(歯グキの上方)を約3cm切り上顎洞の骨を開け、行います。
首を触れながら正常範囲のリンパ節と比べ、大きく硬く触れるリンパ節転移がないかを調べ、CT、超音波(エコー)で確認します。遠隔転移の精査のため、胸部レントゲンや肺CT、PETなどの検査を行います。
以上の検査の後、がんの病期(進行度)分類が行われます。

上顎がんは骨でできた空洞のなかに原発(がん)がある病気ですので、なんらかの症状があるということは、すでにstageⅢ以上の進行した状態ということがほとんどです。

【治療】
がんの根治切除を優先し上顎全摘、拡大上顎全摘を積極的に行う施設と、一塊切除にこだわらず放射線療法化学療法手術療法の三者併用による機能と形態の温存を重視する施設があり、標準的な治療はまだ確立されていません。少しでも良好な治療後のQOLを保つために、放射線療法、化学療法、手術療法をいかに効率よく組み合わせるかが重要となってきます。
当科での治療方法は病期と患者様の年齢や全身状態(合併症)、家族・社会的背景を総合的に評価したのち判断し提案させていただいています。早期のがんには最大限機能と形態の保存に努め、進行がんにはがんの根治性を最優先にするものの、がんの進展方向を考慮して部分的に手術を縮小することもあります。動注化学療法を併用した放射線療法を行い、その治療効果に応じて切除範囲を決めていくというような方法をとることもあります。
切除後の欠損部の露出した筋肉には、足からとった植皮で被覆することで、術後の瘢痕拘縮により口が開かなくなるのを予防します。欠損部が大きくなってしまう場合、腹部よりの筋肉皮弁や肋骨を用いた再建手術で顔面形態の保存を図ります。口のなかの口蓋と歯牙の欠損はプロテーゼで補います。 術後は上顎腫瘍の拡がりに応じて化学療法・放射線治療を追加することがあります。

動注化学療法とは? 浅側頭動脈カニュレーションとは?

化学療法のなかで動脈から抗がん剤(5-FUCDDPなど)を注射する方法です。がんを栄養している動脈に直接抗がん剤が注射されるため、全身的には少量でもがんには直接に高濃度の抗がん剤を注射することができるため、より強い効果が期待できます。われわれの施設では、浅側頭動脈という"こめかみ"のところにある動脈から細いチューブを挿入・固定して少量の抗がん剤を持続的に高濃度でがんへ注射するという方法を実施しております。

上顎全摘とは?

上顎骨を全部摘出することです。がんの浸潤方向によって顔面に傷がつく場合とつかない場合があります。眼球を支える眼窩底骨がなくなると術後に眼球の位置がずれて物が二重に見えやすくなったり、頬骨の欠損や頬部の瘢痕拘縮による顔の陥凹、また鼻の中に痂皮(膿や血液の混合物:鼻くそ)が付着しやすく悪臭の原因となったりすることがあります。口蓋がなくなることで口腔と鼻腔との交通がつきますが、顎義歯(プロテーゼ)を作成することで食事と言語の障害は最小現に抑えられます。

上顎部分切除とは?

上顎全摘と比べ眼窩底骨や口蓋骨などを保存して上顎骨を部分的に切除することです。

拡大上顎全摘とは?

上顎全摘の切除に加えて眼窩内容(眼球)、下顎骨、さらに周囲の組織を取り除いてしまう手術です。顔の形が大きく変わってしまいますので再建手術を考慮します。

【治療成績】
現在5年疾患特異的生存率はstageⅠ、Ⅱでは95%以上ですが、多くの症例が分布するstageⅢでは76%、Ⅳでは68%程度が得られています。
これらの治療法は、がんの進行度や占居部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども充分に考慮に入れたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。

鼻腔がんとは?

顔の中心である鼻の奥を鼻腔といい、左右に上顎洞、上方に篩骨洞、下方に口蓋で囲まれた場所にできたがんのことです。

篩骨洞がんとは?

鼻腔の上方にある副鼻腔のひとつを篩骨洞といいます。そこにできるがんのことをいいます。

上咽頭がんとは?

東南アジアや中国広東省などで高頻度にみられ、抗EBウイルス抗体が高値の者が多いことからEBウイルスの関連が強く示唆されています。わが国での頻度は低く、年間500例ほどの発生頻度です。好発年齢は40~50歳ですが30歳以下の若年者にもみられます。多くは未分化または低分化の扁平上皮がんで、早期に遠隔転移を起こしやすいという特徴があります。

【症状】
初期にはほとんどが無症状ですが、腫瘍が大きくなると耳管を狭窄するために耳症状(片側性の耳閉塞感、軽度難聴など)や鼻症状(鼻出血、鼻閉塞感など)を呈することがあります。さらに進行すると腫瘍は上咽頭のさらに上方の頭蓋底から頭蓋内へ浸潤眼症状(物が二重に見える)や疼痛症状(顔面の痛み、頭痛)、知覚異常(三叉神経麻痺)などが現れてきます。
高頻度に頚部リンパ節転移が起こるため、頚部腫脹のみが自覚症状ということもあります。

【診断】
鼻咽腔ファイバーで局所をよく観察します。腫瘍が疑われたら病理組織検査を行います。上咽頭ではとくに原発の深部への広がりが予想しづらいため、リンパ節転移の診断も含めてCT、MRI、超音波検査(エコー)、PETといった画像検査がとても重要です。

【治療】
放射線・抗がん剤がよく効く性格のものが多いことと、外科的に非常にアプローチが難しい場所であるため手術療法は原則的に行われずに放射線療法が主体となります。頸部リンパ節転移を伴わない早期がんでは60GY~70GYの根治的放射線療法を施行することが多いようです。しかし上咽頭がんは初診時すでに85~90%に頸部リンパ節転移を認めることと、進行がんでは放射線単独で制御することが困難であるため、抗がん剤を併用することが一般的となっています。放射線療法抗がん剤投与を同時に行う方法や放射線療法の前に抗がん剤を投与する方法、さらに放射線療法が終了した後に数回に渡り抗がん剤を再度投与する方法などがあります。

【予後】
近年の報告では、Ⅰ期で約90%、Ⅱ期からⅢ期で60~80%、Ⅳ期で40~50%の生存率です。
これらの治療法はがんの進行度や部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども考慮に入れたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。

中咽頭がんとは?

舌の3分の1後方(奥)、上方は上咽頭より下方(軟口蓋と硬口蓋の境界から下方)、下方は喉頭蓋谷までの上方の口峡部を中咽頭といいますが、さらに以下のような亜部位に細分化されます。

前壁:舌根、喉頭蓋谷など 中咽頭がんの20~30%
側壁:口蓋扁桃、扁桃窩、口蓋弓、舌扁桃溝など 中咽頭がんの50~60%
後壁:中咽頭がんの5%
上壁:軟口蓋下面、口蓋垂など 中咽頭がんの10~15%

以上の4つの亜部位は同じ中咽頭がんとして分類されはしますが、それぞれにできるがんの性格は大きく異なり、治療に対する反応や予後も異なります。たとえば口蓋弓や軟口蓋には高分化型扁平上皮がんが多く男女比は10:1と男性にきわめて多く認められますが、口蓋扁桃や舌根では低分化扁平上皮がんが多く、男女比は2:1くらいといった違いがあります。
発生率は人口10万人あたり1~2人程度です。喫煙飲酒と関係があるといわれ、ヘビースモーカーや大酒飲みの方ほど中咽頭がんにかかりやすく、男性には女性の4~5倍の頻度で発生しています。また、中咽頭がんの1~3割の方には食道にもがんを認めます。いわゆる重複がんといわれるものです。

【症状】
異物感や嚥下時の異常感があるくらいで早期にはなかなか気づかれないことがほとんどです。頸部のリンパ節の腫脹の原因として病院ではじめて見つかることも珍しくありません。進行してくると疼痛や口臭、開口障害、構音障害、嚥下障害などが出てきます。

【診断】
口を大きくあけて直接観察し、"喉頭鏡"という小さい鏡か、細く柔らかい"ファイバースコープ"を鼻から挿入して観察します。がんが疑われると小さく腫瘍の一部を取ってきて病理組織診断(生検)をします。約1週間でがんかどうかの病理組織診断がつきます。中咽頭は小唾液腺や扁桃組織で粘膜面が凸凹しているうえ唾液が粘膜面をおおいかくすようにのっていたり、人によっては咽頭反射が強く(ゲッとこみあげてしまう)観察が非常にむずかしい特徴のある場所です。粘膜塗布麻酔を充分に行ってすみずみまでよく視診をします。患者様にはつらい検査となりますが、指を入れて硬い腫瘍が粘膜下にないか直接よく触れてみる触診が必要であり非常に大切です。
首を触れながら正常範囲のリンパ節と比べ、大きく硬く触れるリンパ節転移がないかを調べます。さらに視診、触診ではわからない深部を評価するため、CT、MRI、超音波(エコー)を施行したうえで進行度を評価して病期を決めます。
さらに重複がんの有無を調べるために上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。遠隔転移の精査のため、胸部レントゲンや肺CTなどの検査を行います。このような評価で進行度を決めて病期を決めます。

【治療】
上記の亜部位のなかで、口蓋弓のがんは高分化のものが多く放射線・化学療法への反応に乏しいため、早期から手術療法が選択される場合が多くなります。
逆に扁桃や舌根のがんでは放射線療法と化学療法によっても、早期であれば手術療法と変わらない良好な成績であるため、放射線療法が選択される場合が多くなります。しかし進行がんではやはり手術が中心となります。ただし手術では嚥下・構音機能の著しい低下が避けられないため、術式の選択には慎重な配慮と経験が必要で、誤嚥の強い場合にはQOLを良好に保つために健常な喉頭を合併切除しなければならないこともあります(失声となります)。とくに舌根がんでは手術後の嚥下機能の著しい低下が必発のため、われわれの施設では持続動注化学療法を取り入れ放射線療法との併用でSTAGEⅢ~Ⅳに対しても喉頭を温存した治療に努めています。放射線療法では唾液の分泌障害が一番の問題となります。口腔内の乾燥は、味覚障害、嚥下障害やう歯などの原因となります。

【予後】
5年粗累積生存率ではSTAGEⅠで70~80%、Ⅱで50~60%、Ⅲで40~50%、Ⅳで20~40%ほどですが、その亜部位によって数字は多少違ってきます。
これらの治療法は、がんの進行度や占居部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども十分に考慮にいれたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。

下咽頭がんとは?

好発年齢は50歳以降であり、60~70歳頃にピークがあります。発生率は人口10万人あたり1~2人程度です。喫煙飲酒と関係があるといわれ、ヘビースモーカーや大酒飲みの方ほど下咽頭がんにかかりやすく、男性には女性の4~5倍の頻度で発生しています。また、下咽頭がんの1~3割の方には食道にもがんを認めます。いわゆる重複がんといわれるものです。
下咽頭はさらに梨状陥凹、後壁、輪状後部の3つの亜部位に分けられます。 鉄欠乏性貧血が女性に多いことから、輪状後部に発生するがんだけは女性に多いという特徴があります。

【症状】
疼痛症状、異物感:特に嚥下時に異物感、疼痛を自覚します。疼痛は、耳へ放散して耳痛として自覚されることもあります。
嗄声、呼吸困難:下咽頭の前方に位置する喉頭への浸潤や声帯を動かす神経への浸潤による麻痺により、呼吸の通り道が狭窄して息苦しくなることがあります。
頸部のしこり:下咽頭がんはかなり大きくならないと症状が出てこない部位でありながら、頸部のリンパ節には転移しやすいという特徴をもっています。初診の患者様の60%以上は、すでに頸部リンパ転移を認めます。

【診断】
"喉頭鏡"という小さい鏡か、細く柔らかい"ファイバースコープ"を鼻から挿入して下咽頭を観察します。がんが疑われると小さく腫瘍の一部を取ってきて病理組織診断(生検)をします。外来でファイバースコープ下に施行する施設と、入院のうえ全身麻酔下に施行する施設があります。約1週間でがんかどうかの病理組織診断がつきます。
首を触れながら正常範囲のリンパ節と比べ、大きく硬く触れるリンパ節転移がないかを調べます。さらに視診、触診ではわからない深部を評価するため、CT、MRI、超音波(エコー)を施行したうえで進行度を評価して病期を決めます。
さらに重複がんの有無を調べるために上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。遠隔転移の精査のため、胸部レントゲンや肺CTなどの検査を行います。このような評価で進行度を決めて病期を決めます。

【治療】
かなり大きくならないと症状が出てこないうえ、早期から頸部リンパ節転移をきたしやすいため、下咽頭がん全体の80%近くがすでに初診時にSTAGEⅢ、Ⅳの進行がんで受診されます。そのため一般的には手術治療が行われます。喉頭と咽頭の一部あるいは全部を手術により切除します。頸部リンパ節への転移には、頸部郭清術を行います。下咽頭がんの切除と同時に行う場合がほとんどです。治療の主体は手術となりますが、手術の前後に放射線抗がん剤の治療を組み合わせることもあります。頻度は少ないながらもSTAGEⅠ、Ⅱでは放射線治療(+化学療法)を喉頭温存のために行います。

手術術式について
(下)咽頭・喉頭・頸部食道切除術とは?咽喉食摘とは?

多くの下咽頭がんに適応となる術式です。喉頭および下咽頭の全部と頸部食道の一部または全部を切除します。
切除後の欠損部は、腸の一部または皮膚を移植して食物の通り道として再建されます。
喉頭(声帯)は全部切除されますが、頸部の前方に呼吸するための孔(気管孔)を作り呼吸の道は確保されます。
嚥下と呼吸の機能は再建されますが、声帯での発声はできなくなるため、食道発声の習得や、人工喉頭などの器具を使ったり、シャントチューブなどの人工物を小手術で挿入することで発声のリハビリテーションをしていただきます。

食道抜去術とは?

食道を頸部と腹部から抜き取るような術式のことです。術後は胃を用いて食道の代用とするのが通例です。創は頸部(場合により前胸部にも)と腹部の2(3)カ所となります。下咽頭がんの食道方向への浸潤が厳しいときや、重複がんとして食道がんを持っていたときに行います。

胃管とは?

胸部の食道が全摘除された後、胃を持ち上げて(胃管)咽頭の粘膜と縫い合わせて食物の道を作ります。下咽頭がんが食道まで深く浸潤しているときや食道にもがんがあるとき、何らかの理由で腸の移植ができない場合などに行います。

下咽頭部分切除術とは?

自然の声を温存するために喉頭の一部あるいは全部を保存し、下咽頭の一部のみを切除する方法です。がんが喉頭浸潤していないか、浸潤していても軽度の場合に行います。
切除後は欠損部を縫い縮めたり、腸や腕の皮膚の移植で欠損部をうめて食物の道を作ります。術後発声は可能で、気管孔が手術中・手術後のはじめのうちは必要ですが、一般的には閉鎖することができます。ただし本来の喉頭・下咽頭嚥下の機能が切除とともにその切除範囲以上に失われるため、飲み込みの力が落ちます(50%切除されたら残る機能は50%よりはるかに少なくなる)。そのため適応の選択が難しく、術後のリハビリテーションがとても重要となってきます。

放射線療法について

早期がんに対しては手術を行わず放射線で根治をめざすことがありますが、残念ながら適応となる場合は少数です。進行がんでは手術療法の治療効果を高めるため、あるいは手術ができない場合などにおこないます。最近は放射線の効果をより高めるために化学療法(抗がん剤)を同時に併用する方法も多く行われています。

化学療法(抗がん剤について)

手術療法放射線療法と併用した治療(集学的治療)の一環として、補助的な治療として行われます。手術ができない場合にも行われることがあります。

【予後】
下咽頭がんは頭頸部がんの中で最も治りにくいがんのひとつです。
全体の5年生存率は40%弱です。I期で約70%、2期3期で40~50%、IV期で30%弱です。放射線単独治療の5年局所制御率は、I~Ⅱ期の早期がんで40~60%ほどです。
これらの治療法はがんの進行度や部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども考慮にいれたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。

頸部食道がんとは?

治療法は下咽頭がんとほぼ同様の治療法となります。下咽頭がんの切除とくらべ切除が下方になるため、気管孔の作成に胸骨や鎖骨の切除、胸部の皮膚に切除を加えた術式が必要となることがあります。

口腔がんとは?

口腔はさらに1)頬粘膜、2)上歯槽・歯肉、3)下歯槽・歯肉、4)硬口蓋、5)舌(有郭乳頭より前)、6)口腔底の6亜部位に分類されています。それぞれが口腔がんのおよそ1)9%、2)5%、3)10%、4)3%、5)60%、6)13%を占めています。近年増加傾向にあり喫煙との関係が深いとされています。口腔がんの特徴として、前がん状態の白斑・紅斑症が先行、あるいは同時に認めることが多いことが挙げられます。口腔白斑症を10年経過観察すると、およそ10%ががん化するといわれ、さらに紅斑症はがんを併発しやすいとされており、注意深い局所診察と経過観察が大切です。また食道などに同時・異時性に重複がんの出現が多いことや、口腔内に時間・場所的に連続性がなく、多中心性にがんを認める症例があり、"口腔多発がん"として扱われることがあります。

舌がん以外の口腔がん

【症状】
白斑・糜爛・カヒ・出血など外観の変化だけの訴えで受診される場合は少なく、疼痛や口腔内腫脹で受診されることがほとんどです。進行してくるとしゃべりにくい、飲み込みにくいというような機能障害や、頸部リンパ節腫脹が出てきます。3週以上に治らない口内炎や、義歯の不適合、抜歯の傷がなかなか治らないと思い込んで放っているうちに進行してしまうことがよくあります。

【診断】
直接視診でがんが疑われると小さく腫瘍の一部を切り取ってきて病理組織診断(生検)をします。あるいは擦過細胞診を行ったうえでがんが疑わしければ生検をすることもあります。擦過細胞診は切開を必要としないうえ、綿棒や鋭匙で擦り取るなど、比較的手軽に患者さまに大きな負担をかけずに行えるからです。約1週間でがんかどうかの病理組織診断がつきます。
首を触れながら正常範囲のリンパ節と比べ、大きく硬く触れるリンパ節転移がないかを調べます。さらに視診、触診ではわからない深部を評価するため、CT、MRI、超音波(エコー)を施行します。
さらに重複がんの有無を調べるために上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。遠隔転移の精査のため、胸部レントゲンや肺CTなどの検査を行います。このような検査の評価で進行度を決めて病期を決めます。

【治療】
手術療法が基本です。原発巣が早期(T1N0,、T2N0 =Ⅰ、Ⅱ期)であれば放射線治療、とくに組織内照射や電子線照射の適応も多いと考えられます。しかし切除術でも一次縫縮や植皮などで小さく再建可能な事がほとんどであることや、術後の機能障害も軽微なうえに治療成績は変わらないこと、医療従事者への被爆の問題などから組織内照射ができる施設が限られていること、口腔は粘膜下に骨組織が隣接する部位が多く、放射線療法では骨壊死などの晩発性障害が生じやすいうえ、制御率も低くなることなどから手術療法が選択されることが一般的です。原発がT3以上となると、拡大切除、再建手術が基本となります。下顎や上顎の骨組織が大きく合併切除されることが多いため、嚥下・咀嚼機能の障害が問題になってきます。また顔面皮膚に近いため、整容面にも配慮が必要な事が多くなります。術前後に放射線を加えることもあります。

頬粘膜がんとは?

表在性のT1~2では、粘膜下に骨組織が隣接しない場所であれば組織内照射や電子線照射の可能性があります。T3以上では手術療法が一般的におこなわれます。上顎骨の欠損にはプロテーゼが作成され、ほぼ十分な嚥下・咀嚼・構音機能と整容的満足が得られます。

上歯槽がんとは? 上歯肉がんとは?

骨が隣接しているため、小さくとも手術療法が第一選択です。上顎骨の欠損にはプロテーゼが作成され、ほぼ十分な嚥下・咀嚼・構音機能と整容的満足が得られます。

下歯槽がんとは? 下歯肉がんとは?

骨が隣接しているため、小さくとも手術療法が第一選択です。歯槽骨より下方の下顎骨体部まで浸潤を認めた場合は、がんは骨髄のなかを伝って広範囲な浸潤を起こしやすいため下顎区域切除となる場合がほとんどです。進行がんでは下顎骨のほかに口腔内、場合によって顔面皮膚も合併切除されるため、再建には大きな皮弁(肋骨付広背筋皮弁など)が必要なことがあります。下顎の再建については舌がんの項と同様になります。

硬口蓋がんとは?

骨が隣接しているため、小さくとも手術療法が第一選択です。上顎部分切除術、上顎全摘術が行われます。欠損部には、瘢痕拘縮による開口障害を予防するため、植皮を行います。術後はプロテーゼが作成され、ほぼ十分な嚥下・咀嚼・構音機能と整容的満足が得られます。

口腔底がんとは?

表在性のT1~2の粘膜下に骨組織が隣接していない場所であれば組織内照射や電子線照射の可能性がありますが、一般的には手術療法が行われます。舌全摘術や下顎区域切除となる場合も多く、嚥下障害に対しては、喉頭挙上術などの嚥下改善手術や、場合により喉頭全摘までも考慮されることがあります。

舌がんとは?

50~60歳に好発しますが、比較的若い20代にもみられることがあります。喫煙、歯による刺激、飲酒が深く要因として関わっており、近年女性にも増加を認めています。
口腔がんの約60%を占める舌がんのさらに約60%はT1、T2の早期がんです。早期であれば放射線療法(小線源)手術療法の治療成績、術後機能はほとんど変わりがありません。舌尖部、舌下部と舌側縁といったわずかな部位の違いでどちらが有利か適応を考慮しています。また小線源ができる施設は限られていますので、当科ではご希望があれば、セカンドオピニオンとしての紹介状とCTなどの資料をご用意いたします。患者様にはいろいろな意見を聞かれたうえでよくお考えになり決めていただいております。
深部浸潤を認めるT3やT4には一般的には拡大切除、再建手術が行われます。術前か術後に放射線を加えることもあります。がんの大きさによっては、下顎辺縁(or 区域)、頬粘膜、口腔底、上顎、皮膚を加えた拡大切除を行います。舌を大きく取る(全摘、亜0全摘の一部)と誤嚥肺炎を起こしやすくなるため、年齢・全身状態など総合的に考慮のうえ、喉頭挙上術などの嚥下改善術や、喉頭合併切除などが追加されることもあります。 切除欠損部は術後の嚥下・構音機能を最大限維持するように工夫されます。舌の部分切除であれば、一次縫縮や分層植皮で術後もほぼ満足いく機能を維持できますが、縫縮により残存舌の運動が障害されるようならば、術後機能低下を最小におさえるために再建手術が行われます。舌可動部半切程度までなら、それほどの嚥下機能障害を残さず常食摂取が可能となることがほとんどです。

舌部分切除とは?

がんから安全領域を10~15mmつけて切除し、術中迅速病理検査でがんが取りきれていることを確認します。切除部分は術後引きつれて残存舌の動きが悪くならないように縫縮や、ソケイ部より薄い皮膚を移植したりします。術後もほぼ満足いく嚥下と構音の機能を維持できます。

舌可動部半切術とは?

舌の前方の動きのある(可動部:有郭乳頭の前)部分を半分切除します。切除する大きさにより腹部や前腕、大腿などから組織を移植し再建術を追加することがあります。それほど大きな嚥下機能障害を残さずに常食摂取と電話での会話が可能となることがほとんどです。

舌半切術とは?

舌可動部半切術の切除に加えて、舌の後方の動きのない(舌根部)部分の半分の切除も含め舌全体を半分切除します。切除する大きさにより腹部や前腕、大腿などから組織を移植し再建術を追加することがあります。舌可動部半切術に比べて、術後の機能障害が残りますが、リハビリテーションによりかなり改善することができます。

舌亜全摘術とは?

舌半切除よりさらに大きく切除することです。舌の3分の2近くあるいはそれ以上の切除のために、切除の大きさだけ誤嚥、肺炎を起こしやすくなります。機能の回復の時間・程度は個人差が非常に大きいため、年齢・全身状態など総合的に考慮のうえ、喉頭挙上術などの嚥下改善術や、喉頭合併切除などが追加されることもあります。

舌全摘術とは?

嚥下時の食物の口腔内の保持と、舌を使った食道への流し込みができなくなるため、誤嚥、肺炎を非常に起こしやすくなります。年齢・全身状態など総合的に考慮のうえ、喉頭挙上術などの嚥下改善術など行いますが、術後のQOLを考え喉頭合併切除が追加されることがほとんどです。

舌喉頭全摘術とは?

喉頭までがんが浸潤していた場合や、年齢・全身状態など総合的に考慮のうえ、術後誤嚥が必発と判断されたときに行われます。誤嚥の心配はなくなり術後のQOLは上がりますが、喉頭を全摘しますので声を失います。

【成績】
5年生存率はⅠ期で約80%、Ⅱ期で約70%、Ⅲ期で約60%、Ⅳ期で約30%です。
これらの治療法はがんの進行度や部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども考慮に入れたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。

喉頭がんとは?

年齢的には60歳以上に発病のピークがあり、発生率は10万人に3人程度です。男女比は10:1で圧倒的に男性に多く、喫煙飲酒が危険因子として重要です。これらの継続的刺激が発がんに関与するといわれており、喉頭がんの方の喫煙率は90%以上、またアルコールの多飲は声門上がんの発生に関与するといわれています。

喉頭がんは、3つの亜部位に分けて比較検討されます。声帯原発の声門がん(60~65%)、その上方の声門上がん(30~35%)、下方の声門下がん(1~2%)です。同じ喉頭がんでも3つの亜部位では、その症状、転移率、治療法、生存率にいたるまで異なってきます。

【症状】
声門がん:
早期にはほぼすべてのかたに嗄声(させい、声がれ)がみられます。一般に粗性の嗄声であり、良性の声帯ポリープとはその性状が異なっています。進行してくると血痰や呼吸苦がでてきます。早期にはリンパ節転移が少ないのが特徴です。
声門上がん:早期には咽頭異物感(部位が一定している)や、嚥下痛(特に固形物や刺激物を飲み込んだ時)が出現してきます。あまり自覚的症状が認めらないことも多いかわりに、比較的早期から首のリンパ節転移が認められることも多く"首の腫れ"が初発症状のこともあります。進行してくると嗄声や呼吸苦が出てきます。
声門下がん:進行するまで症状が出ない事が多く、進行してくると嗄声や呼吸苦が出てきます。

【診断】
"喉頭鏡"という小さい鏡か、細く柔らかい"ファイバースコープ"を鼻から挿入して喉頭を観察します。喉頭がんが疑われると小さく腫瘍の一部を取ってきて病理組織診断(生検)をします。外来でファイバースコープ下に施行する施設と、入院のうえ全身麻酔下に施行する施設があります。約1週間でがんかどうかの組織診断がつきます。 首を触れながら正常範囲のリンパ節と比べ、大きく硬く触れるリンパ節転移がないかを調べます。さらに視診、触診ではわからない深部を評価するため、CT、MRI、超音波(エコー)を施行したうえで進行度を評価して病期を決めます。

【治療】
早期では放射線療法手術療法、進行期では手術療法が中心となります。
抗がん剤は喉頭を温存するため放射線手術と組み合わせたり、手術が不可能な時や放射線治療後の再発時などに行われます。
手術には喉頭部分切除術喉頭全摘術があります。喉頭部分切除術早期がんに行われ、声帯の一部を保存することで、声質は悪くなるものの自分の声を残すことができます。喉頭全摘術は部分切除の適応を逸脱した早期がんや進行がんに行われ、自分の声を失うことになります。
放射線療法早期がんの治療の中心となります。場合によっては進行がんでも喉頭温存の可能性にかけて化学療法と併用し行われることもあります。喉頭はそのままの形で残りますので自然の声が残ります。ただし進行がんや、その原発部位によっては治療効果に限界があります。また放射線治療後の再発の確認は難しくなり、再発時には救済手術後の合併症の頻度が高くなります。一般に早期がんでは放射線療法レーザー手術を第一選択に、よりよい声を温存した治癒をめざします。進行がんでは喉頭全摘術を中心に、場合によっては放射線、抗がん剤も組み合わせて治癒をめざし、声の機能に対しては食道発声、シャントチューブなどの手段を使い二期的に対応していきます。 頸部リンパ節転移に対しては頸部郭清を行います。右左どちらか片側か、両側の頸部郭清術を行います。これは耳後部から鎖骨上の頸部のリンパ節を、脂肪に包まれたままの形で大事な神経や血管を残しながら切除するという手術です。

喉頭レーザー手術とは?

がんが喉頭の一部位に限局している場合に、全身麻酔下に口腔内から視野をとってレーザーを使ってがんを切除します。切除範囲によっては多少声質が変わりますが、自然の発声機能が温存され頸部に傷跡も残りません。喉頭がんの他の治療と比べ治療期間が最小にすみます。

喉頭部分切除術とは?

がんが喉頭の一部位に限局している場合に、喉頭を部分的に切除して発声機能を部分的に残します。喉頭を垂直に切除する垂直部分切除と水平に切除する水平部分切除があり、それぞれに適応、合併症が異なります。欠点は、喉頭の一部分しか残らないため、垂直部分切除では温存された声質がいまひとつのことがあること、水平部分切除では食べ物や水が気管に入ってしまう誤嚥が起きやすいことです。声と食事のリハビリが必要で、患者様の意欲と体力があること、病院にきちんとした音声と嚥下のリハビリテーション体制があることが大切です。

喉頭亜全摘術とは?

発声機能を部分的に残しながら、喉頭部分切除術よりさらに大きく喉頭を切除することです。喉頭の4分の3近くを切除するため、食べ物や水が気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)が、手術後ほぼ必ず起きます。声と食事のリハビリテーションが必要で、患者様の意欲と体力があること、病院にきちんとした音声と嚥下のリハビリテーション体制があることが重要になります。

喉頭全摘とは?

喉頭がんに対して最も一般的に行われている術式です。喉頭をすべて摘出するため自分の声を失うことになりますが、食事の誤嚥の心配はまったくなくなります。術後に食道発声の習得や、人工喉頭などの器具を使うことや、シャントチューブなどの人工物を小手術で挿入することで発声のリハビリテーションをしていただきます。代用の声の獲得としては食道発声が一番よいとされますが(70~80%の方が習得可能といわれています)、人工喉頭、シャントチューブもふくめその習得の程度・苦労は個人差が非常に大きいため絶対の方法はないのが現状です。
普通再建手術は必要ありませんが、非常に進行したがんや、放射線後の再発などの時には再建が必要になることがあります。

【治療成績 】
原発部位によって多少の違いはありますが、Ⅰ期で80~90%、Ⅱ期で60~80%が放射線で完治します。Ⅰ~Ⅳ期の5年生存率は65~70%です。 喉頭がんはがん全体のなかでも高い治癒率が期待できるがんです。しかし、喉頭全摘となる場合が多く、自分の声が温存できる確率は必ずしも高くはありません。生存率を落とすことなく放射線、喉頭部切、放射線と抗がん剤の併用療法といったさなざまな選択肢から最適の治療法の見極めることが重要となります。
これらの治療法はがんの進行度や部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども考慮に入れたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。

唾液腺腫瘍とは?

唾液腺腫瘍は人口10万人に1~2人程度の発生で80%は耳下腺腫瘍、10%は顎下腺腫瘍、9%は小唾液腺腫瘍、1%は舌下腺腫瘍です。さらにおのおのの部位で悪性腫瘍の占める割合は耳下腺腫瘍の20%、顎下腺腫瘍、小唾液腺腫瘍の50%、舌下腺腫瘍の90%です。唾液腺がん頭頸部がん全体の1%程度です。

【診断】
唾液腺にできるがんは大きく18種類の組織型に分類され、さらにそのその組織型が悪性度によって細分化されます。きわめて低い悪性度のもの(ほとんど死なない)からきわめて高いもの(ほとんど治らない)まで多種多様です。他部位のがんと大きく違う特徴として、一般的に開放生検は禁忌とされています。そこで超音波検査(エコー)・CT・MRIなどの画像検査に穿刺吸引細胞診(FNA)をおこない術前に病理組織の検討をつけます。しかし、最終的な確定の組織診断は摘出された腫瘍の病理組織検査でないと判断できないことには変わりありません。

多形腺腫とは?

唾液腺腫瘍のなかで最も多く全体の約3分の2をしめる良性腫瘍です。手術による摘出が基本です。良性でも再発が数%に認められます。また経過をみているうちに3~4%に悪性化が生じるとされています。

ワルチン腫瘍とは? 腺リンパ腫とは?

多形腺腫についで多い唾液腺良性腫瘍で全耳下腺腫瘍の約10%を占めます。30~60歳の男性に多く10%で多発性、両側性を示します。手術後の再発率は低く悪性化はまれとされています。

粘表皮がんとは?

全唾液腺腫瘍の約10%、全唾液腺悪性腫瘍の約30%を占めます。耳下腺悪性腫瘍の中で最も多く、耳下腺腫瘍の15%を占めます。病理組織学的にさらに低悪性度、(中悪性度)、高悪性度と2群(3群)に細区分されることがあります。10~20歳の若年にも好発する特徴があります。低悪性度の腫瘍では顔面神経の保存可能なことも多く5年生存率は90%以上とされていますが、高悪性度では顔面神経の保存は難しいことが多く5年生存率は50%程度とされています。

腺様嚢胞がんとは?

粘表皮がんについで多い唾液腺悪性腫瘍です。病理組織学的に篩管型、腺管型、充実型に細区分されることがあります。多くの特徴的な性質をもつことで有名です。肉眼的に見た目以上に病理組織学的には広く粘膜浸潤していることが多いことや、神経周囲に浸潤しやすいため手術時の安全領域の判断(何cm大きく切除すれば安全かという判断)が難しい。特徴的な肺転移をしばしば起こす。腫瘍の増大スピードが遅いため担がん生存率が高いというような特徴があります。

【治療】
手術療法が第一選択となります。放射線療法は十分な効果があまり期待できないため術後照射として提案されることはありますが、一般的に第一選択にはなりません。化学療法の有効性は確立されていません。
耳下腺がんでは顔面神経の温存の有無が一番の問題となります。病理組織型において悪性度が低い場合やがんの占居部位、大きさによっては顔面神経を温存する術式の可能性をさぐりますが、悪性度が高い場合は顔面神経を犠牲にしてでも安全な切除を優先します。切除後に可能であれば神経移植を行いますが、神経浸潤が強い場合、移植はせずに二期的な再建となることもあります。

耳下腺浅葉切除術とは?

耳下腺の浅葉(顔面神経より表層)を切除する方法です。がんの場合は腫瘍の大きさ、占居部位、顔面神経との接しかた、画像診断、術中判断で悪性度が低いと判断された場合や、手術前の患者様の選択・同意(IC)が得られた場合に施行されます。顔面神経は基本的に保存されます。

耳下腺全摘術とは?

耳下腺の浅葉と深葉(顔面神経より深層)を全部摘出する方法です。がんが深葉の耳下腺の中に納まっている場合に施行されます。大きさ、占居部位、顔面神経との接しかた、画像診断、術中の判断で、あるいは手術前の患者様の選択・同意(IC)が得られた場合には顔面神経を合併切除することもあります。

拡大耳下腺全摘術とは?

耳下腺外の周囲組織まで一緒に切除する方法です。腫瘍周囲の皮膚、筋肉、耳の軟骨、下あごの骨の一部や側頭骨の一部も切除されることがあります。進行したがんに対して行われます。基本的に顔面神経は切除され、可能であれば神経移植を行います。神経浸潤が強い場合、二期的な再建の対応となることもあります。

顎下腺摘出術とは?

腫瘍と一緒に顎下腺を摘出する方法です。がんの場合でも、顎下腺の中にがんがおさまっている場合に行われます。顎下腺を越えて周囲祖組織に浸潤を認めたり、頸部リンパ節に転移を認める場合には頸部郭清が行われます。

顔面神経移植術とは?

下腿後面や頸部の知覚神経を一部採取して、切断された神経断端同士の間に移植することです。

顔面神経再建術とは?

静的再建手術:変性・萎縮した表情筋の筋力では引き上げることができないため下垂している顔面の組織を、大腿筋膜や耳介軟骨を利用して物理的に上に引き上げたり、下垂して弛んでいるところの皮膚を切除することをいいます。
動的再建手術:顔面神経以外の神経により支配される咀嚼筋や、大腿・背部・腹部などの別の部位から、支配神経と栄養血管を付けた一部の筋肉を顔面へ移植することで、下垂部を引き上げる運動や顔面の表情運動を新たに作り出すことです。
舌下腺がんの場合はその解剖的位置関係から、基本的に口腔底がんの治療に準じた切除になります。口腔底粘膜や舌、あごの骨の一部などが切除され、再建手術が行われることがあります。

フライ症候群とは?

耳下腺の手術後、切断された唾液の分泌神経線維が再生するときに皮膚の汗腺を支配する神経線維と誤って交通をおこしたため、食事のときに唾液が分泌さえるかわりに汗をかくようになることです。比較的多い合併症で15%以上起こりうるとされています。
これらの治療法はがんの進行度や部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども考慮に入れたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。

原発不明がんとは?

組織学的に転移性のがんであることは明らかでも、原発部位を特定できない時の病名です。全頭頸部がんの1~5%と言われています。

【症状】
頸部リンパ節の腫脹で受診されることがほとんどです。

【診断】
頸部リンパ節からFNAを施行して病理組織型の検討をします。さらに原発部位を特定するためにファイバー下によく視診を行います。しかし、がんがあっても一見正常粘膜に見えることも多いため触診を行い硬結が触れないかを確認し、上咽頭扁桃などからは生検、細胞疹などを行います。さらにCT、MRI、PETなどの画像診断、上部消化管内視鏡検査など行います。腫瘤の部位によっては頭頸部以外の部位からの転移の可能性もあるため、場合により開放生検によってリンパ節の病理組織を確認し原発部位を推測します。

【治療】
頸部郭清術を行います。さらに放射線療法、化学療法を行うかどうかは標準化されておらず、その病理組織型、部位、転移リンパ節の個数などを考慮のうえ提案されます。

【成績】
5年生存率はおよそ70%です。
これらの治療法はがんの進行度や部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども考慮に入れたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。

副咽頭間隙腫瘍とは?

唾液腺腫瘍、神経原生腫瘍、脳腫瘍や、悪性リンパ腫や転移性腫瘍などが認められます。頭頸部領域に発生する腫瘍のうち、この場所に発生する腫瘍は1%にも及びません。さらに、80%以上が良性腫瘍といわれています。

【症状】
多くは無症状の腫瘤のため、咽頭、口腔、顔面、頸部の腫脹で気づかれることがほとんどです。腫脹による周囲組織圧迫により、滲出性中耳炎(耳症状)や声の変化(声症状)、鼻閉(鼻症状)などをひきおこします。疼痛、開口障害や神経症状を呈することはまれで悪性腫瘍が疑われます。

【診断】
早期の段階では、のどの表面にはまったく異常がみられないことより、しっかりとした大きさになってから発見されることが多い腫瘍です。視診、触診を行いますが、顔面・頸部の深部に存在するため、CT、MRIなどの画像診断が診断の主体となります。FNAを口腔内より行い診断します。

【治療】
手術療法が中心ですが、この場所が解剖学的に非常に複雑な構造をしているという理由から、重要な神経や血管を損傷する危険性のつきまとう難易度の高い手術となります。
そのために、良性で小さく無症状であれば経過観察となることもあります。顔面・頸部の深部で重要な神経、血管が存在する場所であるため、手術の方法も良性か悪性か、腫瘍のわずかな占居部位の違いなどにより大きく変わってきます。
これらの治療法はがんの進行度や部位だけでなく患者様の年齢、全身状態、職業、社会的条件なども考慮に入れたうえで最終的に選択されます。それぞれの治療法には長所や短所があり、十分に理解したうえで最終的にはご自身で治療を選択する必要があります。