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- 新生児聴覚スクリーニングときこえについて(PDF)
- お子様のきこえとことばの育ちについて(PDF)
- パンフレット:知ってほしい一側性難聴のこと(PDF)
聴覚・人工内耳センター
先天性難聴児のきこえとことばの発達 ロードマップ
産科で新生児聴覚スクリーニング検査をおこない、「お子さんのきこえに、問題があるかもしれません」と告げられると、多くの方が困惑・動揺されるかと思います。私たちはお子さんのきこえを精査し、ことばの発達へとつなげていくために下記に示すとおり、お子さんの難聴に対するサポート体制を整えています。
また成長に伴い、ことばの遅れや日常の中での聞こえにくそうな様子、定期検診などで難聴が気づかれることがあります。その場合もまずは私たち精密聴力検査機関へご相談ください。
-
誕生
新生児聴覚スクリーニング検査 -
Refer
(リファー/要精査) -
Pass (パス)
-
検査を行わなかった場合
-
きこえにくいかも?
乳幼児定期健診での指摘
日常生活で音への反応が弱い
ことばの発達がおそい
発音がはっきりしない など。 -
1ヶ月頃
耳鼻咽喉科 初診
医師の診察
言語聴覚士による聴覚検査(BOA/COR/PlayAudiometry 等)
言語聴覚士との面談 -
2~3ヶ月頃
1.耳鼻咽喉科 診察と診断
①聴力の検査
聴覚検査(BOA/COR/Play Audiometry 等)
脳波による聴覚検査(ABR/ASSR)
②原因の診断
画像検査(CT/MRI)、遺伝子学的検査、保存臍帯の検査
2.言語聴覚療法 聴覚補償・療育の開始
補聴器の装用、聴覚活用のハビリテーション
療育機関の紹介、療育先との連携 -
3~6ヶ月頃
1.耳鼻咽喉科 診察と診断
聴覚活用の発達をみながら、今後の治療方針を検討
2.言語聴覚療法
聴覚活用、コミュニケーション方法指導 -
10~12ヶ月頃
聴覚活用、音声言語によるコミュニケーションの発達をみながら、補聴器による聴覚補償を継続するとよいのか、人工内耳手術を検討するほうがよいのか、養育者と相談し方針を決めます。
お子さんの聴覚活用、ハビリテーションは継続して行います。
先天性難聴の原因診断 〜原因診断に基づく最適な医療の提供〜
原因診断を行なうことの重要性
難聴と診断された場合、まずご両親が考えることは「何故、こどもは難聴になったのだろうか」「これから難聴はどうなるのだろうか」だと思います。私たちは早期の正確な原因診断が最も重要であると考えております。難聴の原因が何であるか正確に診断することで、難聴の重症度や進行度の予測、治療法の選択などに対し有用な情報となり難聴治療の出発点になるからです。具体的には難聴と診断した時点で、遺伝学的検査、先天性サイトメガロウイルス検査、画像検査を強くお勧めしております。これらの検査を組み合わせることにより難聴のお子さんの約80%で難聴の原因が診断されます。
難聴の遺伝学的検査
一般的に先天性難聴の50%以上が遺伝性難聴であると言われています。
難聴に関係する遺伝子は現在、150種類程度報告されています。これまで通常の保険診療では19遺伝子154変異について調べていましたが、2022年9月以降保険診療の内容がアップグレードされ、現在では保険診療で51遺伝子(1150変異)の検索が可能になりました。それでもまだ保険診療でカバーできる51遺伝子以外に原因となる遺伝子が数多く判明しているため、保険診療で行なう遺伝子検査(一次スクリーニング)で原因が同定されなかったとしても遺伝子が原因でないとは断定できません。
私たちは難聴の遺伝子診断で日本をリードする信州大学医学部人工聴覚器学講座と共同での研究を行なっています。現在信州大学の研究では難聴に関連する63遺伝子の解析(二次検査)を行なっており、一次スクリーニングで原因が不明だった患者さんでも二次検査で原因診断ができたケースが数多く見られます。信州大学との共同研究を行なっていることで、今後世界から新たに難聴の遺伝子に関する情報が出てきたときに、早期に患者さんにお伝えすることができます。
難聴の原因診断は今後の治療法を選択する上で非常に重要な情報となりますが、同時に遺伝情報は非常に重要な個人情報でもあるため、検査結果を患者さんに説明する際には十分な経験を積んだ臨床遺伝専門医によるカウンセリングを行なっております。
さらに、信州大学医学部人工聴覚器学講座教授 宇佐美真一先生による特別カウンセリングも月2回行なっております。三田病院には、臨床遺伝指導医が2名(宇佐美、岩崎)、臨床遺伝専門医が2名(野口、高橋)おり、難聴の遺伝学的検査において国内で最も充実した施設となっております。
先天性サイトメガロウイルス感染症の検査
先天性難聴の原因として遺伝性難聴以外で高頻度のものの一つに先天性サイトメガロウイルス感染症が挙げられます。これは、先天性難聴患者さん全体の20%程度にあたります。
先天性サイトメガロウイルス感染症による難聴の特徴としては「色々なタイプの難聴を来しうる」ことと言えます。一側性難聴もあれば両側難聴もあり、軽度難聴もあれば重度難聴もあり、進行する難聴もあればあまり進行しない難聴もあり、非常に症状が幅広いことが特徴と言えます。検査は保存臍帯(臍の緒)の一部を使用して、調べます。
遺伝性難聴・先天性サイトメガロウイルス感染症による難聴が
先天性難聴の約8割程度を占めると考えられます。
画像検査
CTやMRIなどの画像検査では先天性の中耳奇形や内耳奇形、蝸牛神経(音を脳まで伝えるための神経)の低形成などの診断ができます。
先天性難聴の治療〜補聴器から人工内耳まで最適なデバイス提供〜
難聴の精密検査を施行して難聴が確定すると、原因診断を行いながら難聴治療が開始されます。まず補聴器の装用となり、言語聴覚士による補聴器のフィッティング、イヤーモールド作成を行います。私たちはお子さんに最適な補聴器の装用効果が得られるよう療育機関と緊密に連携しながら繰り返し調整を行なっております。
しかしながら、重い難聴の場合、補聴器では言語発達のために十分な装用効果が得られないことが考えられます。当院では現在、日本で保険診療可能な人工聴覚器(人工内耳、残存聴力活用型人工内耳、骨導インプラント(BONEBRIDGE, Baha)、人工中耳VSB)を行なっており、下記に示した聴力検査図が適用聴力になっています。私たちは前述した科学的な先天性難聴の原因診断をもとに、お子さんの聴力に最適なデバイス選択情報を早期(1歳前)にお届けし、より良い聴覚活用を提案します。
聴力適応基準
人工内耳手術の治療方針〜個別化医療の実践〜
人工内耳は一生長期間に渡り使用するものであり、お子さんの一部になるものです。お子さんにベストな治療をお届けするため、私たちは人工内耳手術において、低侵襲人工内耳手術、蝸牛全長刺激、オーダーメイド人工内耳電極選択を基本方針に行っております。国内では他に類のない最新医療を導入した個別化医療を実践している施設と言えます。
低侵襲人工内耳手術
低侵襲人工内耳手術を行うことにより、内耳損傷を抑え残存している聴力を温存できることがわかっています。たとえ、残存聴力がない重度難聴であっても内耳損傷を抑え蝸牛構造を温存することは、将来的な聴神経の変性を予防し、新しい医療に対応できる内耳構造を残すという意味において重要です。そのため低侵襲手術を強く推奨しています。低侵襲な手術を行うためには、柔らかい人工内耳電極(インプラント)の選択が重要となってきます。私たちは最も柔らかい人工内耳電極を使用しております。
さらに、残存聴力活用型人工内耳(EAS)手術も含めて、実際に残存聴力がある場合には、手術中に蝸電図(CM)測定行いながら人工内耳電極を挿入する手技を行っています。人工内耳電極挿入中に蝸電図で音反応がみられれば確実に残存聴力を温存することができます。このように私たちは低侵襲人工内耳手術手技に重きを置いて取り組んでおります。
蝸牛全長刺激
蝸牛は2回転半あり、全長にわたり感覚細胞(有毛細胞)と聴神経細胞が張り巡らされており、入口から高音域で、奥は低音域を感じるようになっています。私たちは蝸牛全体をカバーする長い電極選択を行なっています。蝸牛全長を刺激できれば適切な周波数帯刺激が可能となり、より複雑な音声(音楽など)の聴取も可能になると考えているからです。一側性高度難聴に対する人工内耳手術が行われている欧米では、長い人工内耳電極を挿入する蝸牛全長刺激がより自然な音を聴取し左右のバランスを取るのに重要であると示しています。当院では現在、先進医療「一側性高度または重度感音難聴に対する人工内耳の有効性・安全性に関する研究」を施行しており、日本人においても一側性高度難聴に対する人工内耳治療の成果をお示ししていく予定です。
私たちは両側高度難聴であっても同様の考え方で蝸牛全長刺激を行う電極選択が重要であると考えております。
オーダーメイド人工内耳電極選択
高度難聴の原因として、内耳構造奇形があります。その場合、蝸牛全長は変化してきますのでさらに細かい電極選択が必要になります。私たちは2022年OTOPLANシステムによるオーダーメイド人工内耳電極選択を開始しました。手術前に撮影するCTスキャン画像を利用し、内耳の構造(蝸牛長)を計測し(図)、蝸牛全長刺激の概念に基づいて個々の蝸牛の長さに応じて適切な人工内耳電極選択を行います。私たちが主として使用しているメドエル社製人工内耳電極には9種類の長さの異なる電極があるため、その中から選択しています。そして、電極位置から推定される周波数割り当てに基づいた人工内耳マッピングを行っており、より良い聞こえの回復を目指しております。
専任の言語聴覚士4名による充実した検査・リハビリ体制
発達に合わせた聴力検査
当院では、早期にお子さんの聴力を確定し、補聴器を着け、聴覚の活用を促すことを方針としています。まずは正確な聴力を知る必要があります。そのために、お子さんの発達に合わせた方法で、聴力検査を行います。
スピーカーから音を出してお子さんの反応をみる検査です。
音に気付いて振り向いてくれると、箱の中のライトが光り、おもちゃが動くしかけになっています。
インサートイヤホンは、耳の中で音がでるので、スピーカーとは違い、左耳、右耳それぞれの聴力測定ができます。
小さなお子さんはヘッドホンがつけられないので、左右別に検査するときはこのような方法をとります。
音が聞こえたらビー玉を入れる、手を挙げるといった反応をしてもらい、検査を行います。
大人と同じようにヘッドホンを着けた検査もできるようになっていきます。
特殊な検査
その他にも、当院の特色として、限られた施設でしか行っていない先進的な検査を受けることが可能です。
どこから音が聞こえたかを回答してもらい、音源定位能力を調べる方向感検査や、日常生活に近い環境である雑音下での文章聞き取り検査(OLSA)なども行っています。OLSAはこれまでの検査と異なり、50%の正解率が得られるSN(信号雑音)比を検出するより詳細な検討が可能な検査法です。
様々な検査が可能な体制となっていますが、聴力検査の目的は、現在の聞こえの状態を把握すること、今後のリハビリテーションに活用することであり、そのお子さんにとって必要な検査のみを行っております。また、検査にも「練習」が必要です。お子さんが正確に、自信をもって検査ができるよう、お子さん、養育者と協力しながらおこなっています。
チーム医療
難聴のあるお子さんに適切な診断・治療・リハビリテーションを行うため、当院ではチーム医療を行っています。
医師だけでなく、看護師、言語聴覚士5名(うち3名は日本言語聴覚士協会の認定言語聴覚士〈聴覚障害領域〉資格を取得)、耳鼻科専属の臨床検査技師1名、受付スタッフなどチームでサポートできる体制をとっています。少しでも不安なこと、心配なことがありましたら、耳鼻科スタッフにお声がけください。
補聴器・人工内耳を活用したリハビリテーションの方針
当院の言語聴覚療法部門で行っている、補聴器・人工内耳装用児者へのリハビリテーションは、聴覚活用と音声言語によるコミュニケーションを第一選択としています。
早期に適切な方法で聴力検査をおこなって聴力レベルを確定し、補聴器による聴覚活用をはじめます。難聴のあるお子さんが補聴器をつけたあと、音があることに気づく、周りの人の声に気づく、おもちゃや周りの音に気付き意味がわかるようになるためには、お子さんの聞こえのレベルや発達の様子にあわせたリハビリテーションが必要です。
原因診断に基づいたリハビリテーション
補聴器で聴覚活用をはじめるのと同時に、医師が難聴の原因を調べていきます。これが前述の「難聴遺伝子検査」「サイトメガロウイルス検査」等の原因診断や、CT、MRIによるお耳から聴神経の画像診断です。補聴器で効果が期待できるのか、人工内耳のほうが聴神経へ音の信号を伝えやすくなるのか、補聴器を装用した状態での聴覚検査や、発声・発話の発達経過をみながら、難聴の原因診断に基づいて治療法を選択し、リハビリテーションの方針を検討します。
科学的データに基づいたリハビリテーション
小さなお子さんが家庭で過ごす時間は長いため、主なコミュニケーションの相手は、養育者(保護者)であることが多くなります。そのため、養育者が行うコミュニケーションは、難聴のあるお子さんへ伝わりやすいように工夫する必要があります。上手にお話ができないお子さんも、視線や声、表情、指をさすなどで、周りの大人へ伝えていることがたくさんあります。お子さんの聴覚(きこえ)を活用し、養育者とお子さんの音声を介したやりとりを育てる方法として、当院では聴覚口話法(音や声を「聴いて話す」コミュニケーション方法)のリハビリテーションに取り組んでいます。当院には、Hearing Implant Rehabilitationist としてメドエル社から認定(Accreditation)をうけた言語聴覚士が3名おり、特に人工内耳術前からの聴覚・音声言語の活用と、養育者へのコミュニケーション方法指導を行っています。
また、声、ことばのやりとりや、家庭の音環境(雑音など)は、それぞれのご家庭で異なります。一律に「近くで、少しゆっくり話しましょう」といっても、それが一日どのぐらいの量で行われ、どのような環境で行われているかは、各家庭で大きく異なるのが現状で、また、それが普通のことです。
当院では「LENA(Language Environmental Analysis)」という専用の機器をつかって、家庭での声かけの様子、音環境の様子をデータから分析し、各家庭の状況をふまえたうえで、よりよい声掛け、環境調整へのアドバイスを行っています。
そして、定期的にお子さんの発声・発話、聴覚活用と、全体の発達をチェックし、成長にともなう次の目標をたて、養育者と共有して取り組んでいます。
療育・養育機関との連携
当院では聴覚と音声を活用した療育を行っている専門機関と連携をとりながら、医療の側からお子さん、ご家庭を支援しています。「病院に通っていれば、難聴のお子さん専門の療育機関へ通わなくてもいいのではないですか?」という質問を受けることがありますが、そんなことはありません。療育機関では、お子さんの発達にあわせた個別の療育指導のほか、同じぐらいの年齢のお子さんがあつまって活動するグループ療育が行われています。また、養育者が難聴や補聴器・人工内耳について理解を深め、お子さんの発達を促すための家庭での取り組みなどをテーマにした勉強会を行っているところもあります。つまり、療育機関へ通うことは、養育者にとって、先生方のご指導をもとに、お子さんを客観的にみる機会を得ることとなり、お子さんの成長にあわせたかかわり方を学ぶ場所となります。お子さんにとっては、養育者以外の大人(先生)や、お友達にふれ、早くから社会性を身につける機会となります。重要なのは、「療育方法がお子さんのコミュニケーション方法にあった内容で行われる」という点です。
私たちは、聴覚を活用し、音声言語でのコミュニケーションをもとに、よく聞いて、よく考え、よく話すお子さんを育てることを目標としています。そのため、療育に関しても、聞くための環境をととのえ、お子さんが考える時間をもち、お話を聞いてくれる姿勢で対応してくれる施設をお勧めしています。
最近では、療育機関へ通いながら、幼少期から保育園に通ったり、地域の幼稚園へ通ったりするお子さんが増えています。保育園、幼稚園の様々なお部屋やお庭の環境のなか、難聴のあるお子さんが、補聴器や人工内耳を上手につかって生活していけるように、言語聴覚士が通園先を訪問し、担当の先生方ときこえやことばの発達について情報共有を行っています。
連携施設
人工内耳手術
高度の感音難聴の治療は従来困難とされておりましたが、人工内耳が平成6年に保険適応となり、我が国でも人工内耳装用者が急速に増え多くの患者様が聞こえを取り戻しています。
当科の岩崎医師は年間100例前後の人工内耳手術を経験しております。また、他病院の人工内耳手術の指導も多く行っており、この分野のスペシャリストです。
人工内耳は電極を内耳に挿入する手術ですが、手術後も手術前の聞こえをできるだけ保つための、「内耳にやさしい手術法」を採用しています。 高齢者で合併症のため全身麻酔が受けられない方に対しては、国内では唯一局所麻酔下の人工内耳手術が可能な施設です。ご相談ください。
小児では両耳同時の人工内耳手術も行なっています。1度の入院で両耳の人工内耳手術を行うことで、聴覚訓練も両耳で始めるため、より良好な言語発達が見られるようになりました。一側の人工内耳手術が1時間~1時間半で行うことができ、複数の執刀医体制を整えたことでこれらを可能にしました。
人工中耳手術
2016年に人工中耳手術が保険適応となりました。岩崎医師は2000年からこの最新医療に取り組み、2011年~2014年にかけて人工中耳であるVibrant Soundbridge (VSB)(図)の臨床治験が実施され、岩崎医師は医師専門家として参加しました。
補聴器は大きくした音を外耳道から入れますが、人工中耳は直接内耳へ音を入れるため、鼓膜や中耳を介さない分、良質な音質が得られます。この最新医療は、外耳道や中耳の疾患で既存の治療法では難聴が改善しない場合で、補聴器の常時使用が困難か十分な効果が得られない場合に対象となります。
慢性中耳炎等の手術を受けても難聴が改善しない方や外耳道閉鎖症の方は難聴に苦しまなくても良くなるかもしれませんので、ぜひ受診ください。
その他の人工聴覚器手術
人工内耳は高度の難聴患者様が対象となりますが、低い音の聞こえが正常~軽度難聴で、高い音の聞こえだけが高度難聴という高音障害型難聴(図1)は従来補聴器による効果が乏しく、人工内耳の対象にもならないため有効な治療法が確立されていませんでした。
しかし、低音部は直接耳から音響情報で聞き取り、高音部は人工内耳で聞き取るという新たな治療法(残存聴力活用型人工内耳:EAS)が7月から保険で受けられるようになりました。まだこの治療は限られた施設でしか受けられません。
岩崎医師はすでにこの新たな治療法の経験があり、当院では受けられますので、このような聞こえの方はぜひ一度ご相談ください。
また、中耳炎に対する中耳手術(鼓室形成術)や外耳道閉鎖症に対する外耳道形成術を受けられても聞こえの改善が十分でない方もいらっしゃいます。
従来であれば補聴器での対応以外は選択肢がありませんでしたが、それでも聞き取りが不十分な方、ならびに種々の原因で補聴器が使用できず聞こえないままであきらめている方に対して、新たな治療法として植込型骨導補聴器(Baha)を保険医療で受けられるようになりました。
比較的簡単な手術であり、聞こえを満足に取り戻す可能性は十分にありますので、このような病気による難聴でお困りの方はご相談ください。
その他、人工中耳や突発性難聴などで片耳がまったく聞こえない方への新たな治療法に取り組んでおりますので、さまざまな難聴に対し最先端医療を含めて情報をお伝えします。
最近では、先天性、もしくは言語習得前の両側高度・重度難聴で人工内耳手術によって聞き取りが改善されたという報告が多くみられるようになってきました。先天性難聴で大人になった方もあきらめず、ぜひ、ご相談いただきたいと思います。
中耳手術(鼓膜形成術、鼓室形成術、アブミ骨手術)
当科では、慢性中耳炎などで鼓膜に穴が開き(鼓膜穿孔)、聞こえや耳だれに悩んでいる方へ鼓膜形成術、また真珠腫性中耳炎などには鼓室形成術と、患者様に応じて最適な治療法をご提案し実施しております。
鼓膜形成術は「皮下結合組織を用いた接着法による鼓膜形成術」をメインに行っており、短期入院で手術が可能になる例が多く、場合によっては局所麻酔での「日帰り手術」も可能です。鼓室形成術においても入院期間ができるだけ短く、外来受診のときに、耳の処置がほとんど不要になるような手術方法を行っています。

鼓膜穿孔(左図)と鼓膜形成術後(右図)の内視鏡写真
鼓膜穿孔に対する鼓膜再生治療について
鼓膜穿孔は鼓膜に穴が開くことで生じる伝音難聴(音が伝わりにくい難聴)や耳だれを起こす病気です。伝音難聴の改善、耳だれを止めるために、当科では鼓膜穿孔を閉鎖する患者様に負担が少ない「皮下結合組織を用いた接着法による鼓膜形成術」を実施してまいりました。鼓膜形成手術は穿孔部に自分の組織(耳後部皮下結合組織)を用いて鼓膜の上皮再生を促します。そのため、耳後部の皮膚を切開する必要がありました。
昨年、bFGF(繊維芽細胞増殖因子)製剤(リティンパ®)を使用した鼓膜再生治療が、保険診療となりました。この治療法により外来日帰り手術での鼓膜閉鎖が可能となり、当院においても2020年4月から施行開始しております。最終的な鼓膜穿孔の閉鎖率は97%です。皮膚を切開する必要がなくなりました。
患者様の費用負担は鼓膜形成手術と比較して低減しております。
詳細は中耳炎外来(木曜日午後)で説明しております。予約外来となっておりますので事前の予約をお願いいたします。または診察を受けた先生にご相談ください。
鼓膜再生の手順

難聴遺伝子診断と遺伝カウンセリング
先天性難聴の原因の半数以上は遺伝子が原因であると考えられています。また、成人発症の難聴の中にも遺伝子が原因であることがあります(若年発症型両側感音難聴)。現在保険で調べられる難聴遺伝子診断は先天性難聴と若年発症型両側感音難聴の2種類になります。当科では毎年80名以上の難聴遺伝子診断を行っています。年齢より進行した難聴の方や特殊な聴力型(低音障害型や全域障害型など)の方は検査を受ける必要があります。当科では検査の実施数だけではなく、結果が出た後の説明(遺伝カウンセリング)をしっかり行っています。また、耳鼻咽喉科医で臨床遺伝指導医取得者が2名、臨床遺伝専門医取得者が2名在籍しています。難聴遺伝子診断の日本の権威である宇佐美真一先生が専門外来として遺伝カウンセリングを月に2回土曜日に実施しています(完全予約制)。さらに、遺伝カウンセラー1名、耳鼻科医2名が参加し、初回は多くの資料を使って1時間ほどのカウンセリングを行います。このように当科は、日本において高水準の難聴遺伝子診断を受けられる施設です。
先天性高度難聴の場合、できるだけ早期に人工内耳で音を入れてあげた方が良好な言語発達がみられることがわかっています。小児人工内耳適応基準でも体重が8kg以上であれば、適応年齢である1歳以下でも手術が可能となりました。0歳児に対して人工内耳の適応を判断するには高い専門性が必要です。難聴遺伝子診断は聴力の程度や予後、人工内耳の有効性の予測に大変有用となります。当科ではできるだけ早期に人工内耳手術ができる体制を整えています。今後、具体的な難聴遺伝子変異のケースを定期的に紹介していく予定ですので、参考にしていただければと思います。
先天性外耳道閉鎖症
先天性難聴で大人になった方への最新情報
人工内耳手術は、先天性または言語習得前の難聴者でも効果が期待できるようになりました。術前の聴力やコミュニケーション手段が術後の改善に影響します。当院では最適な治療法を提供し、新たなリハビリテーションの開発にも取り組んでいます。難聴でお悩みの方はご相談ください。
外リンパ瘻(CTP検査、内耳窓閉鎖術)
内耳(蝸牛・三半規管など)と呼ばれる、きこえやバランスを司る組織は、外リンパ腔、内リンパ腔に分かれております。
外リンパ腔から中耳へリンパが漏出することにより、難聴(特に進行や変動するものは注意)や耳鳴り、めまいなどが生じ、これを「外リンパ瘻」と呼んでいます。原因は主に、頭部外傷、ダイビング、鼻かみ、飛行機、いきみなどが考えられています。
従来は外リンパ瘻の確定診断は困難でしたが、近年、埼玉医科大学 池園教授らの研究により外リンパに特異的なタンパク質(CTP)を調べることが可能となってきました。
当科も同様の手法で中耳から回収した検体でCTP検査を施行しております。また実際に漏出している、もしくは可能性があれば早めに漏出部を閉鎖する手術(内耳窓閉鎖術)でめまいや難聴が改善する場合もありますので、ご相談ください。
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電話03‐3451‐8121(代表)
※14:00~17:00の間にお願いいたします。